おにまる/麻布十番

どういう風の吹き回しか、山田が店にテレビを寄贈しました。設置工事費用も含めると数十万はくだらないプレゼント。意図がわからず、関係者は皆一様に首を傾げているのですが、さすがはヒルズ族、太っ腹だねと適当な理由をでっちあげて納得する。
自宅で白ワインボトルを半分空けていたところだったのですが、ビールで乾杯し、ふりだしに戻ります。
最高級の茶碗蒸しを3人でシェア。宝石のような海の粒を口の中で弾けさせ、濃厚でクリーミーな磯の香りを鼻の奥で膨らませる。今夜も美味しい夜となりそうです。
香りは控えめで優しい口当たり。良い意味でアタックの印象に乏しく食事を邪魔しません。甘いながらも余韻は短くサッパリ。冷酒はもちろん、熱燗でも楽しめそうな味わいです。
見慣れないツマミ。「梅水晶。サメのナンコツを梅肉で和えたもの。コリコリとした食感と梅干の酸味が見事な調和を見せてくれますよ」、と流暢に解説してくれたのはシイタケ嫌い。彼は当店への敬愛に満ちており今にでも働き始めることができそうです。
串を3本。ササミにハラミにネギマです。ササミは淡い食感で物腰柔らかな味わい、一方でハラミは猛々しい噛み応えで獰猛な肉食獣になったかのような気分を味わえます。そしてネギマ。脂を湛えたジューシーな鶏肉にシャクっとした太めのネギ。強めの塩味と共に酒が減っていく。
鹿児島の天然カンパチにマグロの中落ち。食べるまでもなくその味が伝わってくる艶やかな色合い。カンパチは小ぶりながらも凝縮感に溢れ小躍りしたくなる味わい。中落ちは厚ぼったい脂と健全な赤身が重なり合い最高の味覚。本日一番のお皿でした。
ラスト一足の豚足に滑り込みセーフ。数分後、売り切れを宣告されたバリキャリたちのテーブルより「○○さん(私の名)ぐわーーーーーー!!」悲鳴と怒号があがる。強盗されぬようにと慌ててコラーゲンの大作を胃袋に放り込む。これで明日のベイビースキンは確約されました。
手取川が世に送る大吟醸。華やかな香りに誘われ一口含むと外連味の無い味わいにぞっとする。これは旨い。水晶のように綺麗な液体がするすると肝臓に染み渡ります。今月一番の日本酒だ。

と、ここで冒頭の氏子、山田が泥酔状態の友人を大勢連れて闖入。談笑する声は賑やかを通り越して耳を圧するばかりである。「山田うるさい!何時やと思っとるんじゃ!出て行けぇ!」と、お店の方。彼らが座る間もなく一瞬のうちに追い返されていきました。確かに迷惑そうなグループではありましたが、巨大なテレビを寄進する狂信的な常連客を出て行け呼ばわりするとは、ずいぶんと冷酷公平な店である。
深夜1時に以前からチャレンジしてみたかったトマトもつ鍋。ベースは塩もつ鍋であり、そこへ大量のトマトやパプリカ、唐辛子などが放り込まれています。食す前より目に届くカプサイシンとトマトの酸味。

姿勢を正して食べ始めると、一口運ぶごとに必ずトマトが入っています。想像以上のトマト感であり、汗が吹き出る辛味も爽やか。斬新な味わいで、イタリアの未開の村の郷土料理を食べているかのようです。
取り分けた後は自由にパクチーをトッピング。途端にオリエンタルな風味へと移行。味覚の語彙に溢れた店である。
日本酒を切り上げビールへ回帰。辛い料理には黄金色の泡が一番。

と、この時、泥酔に輪をかけた山田がひとりで戻って来る。断りも無しに私の隣に座り込み、これまでの飲み会がいかに最悪で楽しかったかを廻らない呂律で説明する。麻薬中毒者もかくやと思わせる支離滅裂っぷり。基本的に話題が酒・女・ロックであり、カート・コバーンが帰ってきたかのようで思わずサインをねだりそうになりました。
〆にちゃんぽん麺を投入。バターも入れて円やかにまとめあげます。一見すると南イタリアの料理であり、粉チーズでも振り掛けたくなる味わいでした。

「○×※▲□」と山田の発言が全く聞き取れず、私には「カッサンドラーの嘆き」、シイタケ嫌いは「カノッサの屈辱」、スーパーバイザーは「うどん」に聞こえたとのこと。頓珍漢も甚だしい。

こいつはもうダメだ、と山田に見切りをつけ、お会計をして退店。ホラ、山田、帰るぞ、と促してもどうにも腰が重くなかなか我々についてこないので放って帰りました。どうか〆に長崎ちゃんぽんなどを独り占めしていませんように。



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  • 2016年8月 ←オマエと言うと1,000円
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  • 2016年3月 ←精彩を欠いている山田さん。
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  • 2016年2月 ←スーパーバイザーの誕生日会。
  • 2016年2月 ←ヒルズ族というのはまやかし。
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  • 2014年8月 ←イスラエル人が闖入し大騒動
  • 2014年8月 ←初訪問。もう2年も前なのですね。
  • 麻布十番グルメまとめ ←ほぼ毎日、麻布十番で外食しています。その経験をオススメ店と共に大公開!
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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