那覇市久米の「ラ メゾン クレール 1853(La Maison Claire 1853)」。フランスの三ツ星店で経験を積んだシェフが「フランス料理よりもフランスらしく、琉球料理よりも琉球らしく」という野心的なスローガンを掲げるフランス料理店です。
シェフの経歴やコンセプトはさておき、当店はサービスが壊滅的ですね。おたく飲食経験は初めてですかぐらいの段取り悪さであり、細やかな配慮というものとは縁遠い世界に生きているようです。もしかするとタイミーだったのかもしれません。
閉口したのはワインの取り扱いで、ボトルでスパークリングワインを注文すると10分以上は捜索の旅に出て帰って来ず、抜栓前にエチケットの確認もしないで勝手に開け、乾杯後はあろうことかバキュバン(真空ポンプ)で栓を閉じてきます。素人でも少し考えれば根本的に間違っていることがわかるだろうが。ケーキ切れそう?
グラスのワインが無くなりつつあるのに注ぎ足す気配は無く、空っぽにしてようやく注ぎに来る有様。当店のサービスは恐らくフランス料理店に客として出入りした経験はなく、価値観がグラス交換制の居酒屋です。この夜わたしはじっと我慢の子であった。
シェフもシェフで、料理を説明する際「えーと、何だっけな?」と、自分が作った料理の名前を思い出せない。サービスは隣に突っ立ってニコニコしているだけで、ワインを注ぐなど他の仕事に取り掛かろうともしない。なにこれ世界滅びるの?
あぐー豚と地鶏を用いたシャルキュトリにペラペラのフォアグラをトッピング。そのへんの西洋居酒屋で出てくるようなクオリティであり、不味くはありませんが、美味しくもありません。歯茎がげっそりする。
アバサー(ハリセンボン)のスープ。お、これはなかなか美味しいですね。魚介の旨味が凝縮されておりコクがある。本日一番のお皿です。先のシャルキュトリからインターバルが20分もあったことを除いては。
エビとミーバイ(白身魚)の調理にも長時間を要し、これは
「民芸酒場 おもろ」などと同様に精神と時の部屋を想起させます。フィルムをハサミでチョキチョキ切るスタイルも激ダサく、連れも「何十年前のプレゼンテーションなんだよ」とゲラゲラ笑ってました。とは言え味は悪くなく、いや、けっこう美味しい。
メインは本部牛の内モモとリ・ド・ヴォー。先ほどの料理から30分近く経っており、スーパーボウルのハーフタイムショーに匹敵するインターバルです。味についても全然ダメで、皿がキンキンに冷たく肉から温度をガンガンに奪っていました。加えてシェフから「リ・ド・ヴォーと言いまして、ミルクを消化する部位です」との謎解説があり、医師である連れは眉間に深い縦皺を刻み、口をへの字に結ぶ。
デザートは悪くないのですが豪華さに欠け、プリンにチョコと、なんだか3時のオヤツのようです。「フランス料理よりもフランスらしく、琉球料理よりも琉球らしく」というコンセプトとは一体なんだったんだろう。
極めて遺憾なディナーでした(画像は食べログ公式ページより)。客単価の割にサービスは訓練を受けているとは到底思えないレベルであり、とりわけワインの取り扱いは目に余り、基本的な作法すら欠如しています。
厨房には躍動感が無く、料理ごとの提供間隔には果てしない空白が横たわり、その体験は時代遅れの遺物と言わざるを得ません。
提供される価値と価格は著しく乖離しており、その対価を支払う意義を見出すことは全くできませんでした。
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