日本料理 太月/表参道

2013~2014年における和食界の新星。30代半ばながら貫禄のある京風料理を出すということで話題であり、お邪魔するのを楽しみにしておりました。だって食べログは4.29なんだぜ。
入店するとピィーンピィーンピィーンピィーンすげーうるさい。BGMのために鈴虫を飼っているらしいのですが、そいつらが無茶苦茶うるさくて超落ち着きませんでした。虫の音は外で開放的に聞くものであって、室内で楽しむものではありませんね。
 まずは隆 足柄若水を注文。「じゃああたしは隆 備前雄町で」って違うの頼むんかい!そこはお店側が機転をきかせてくれて、ぐい呑みを2つ用意して下さいました。

ところで、たまたまかもしれませんが客層が悪かったです。半グレみたいなポロシャツ姿のオッサン2人組、我々を品定めするように無遠慮に視線を投げかけてくるペイズリー柄シャツのオッサン、全身ボッテガベネタの同伴客。うわーなんか嫌だなこいつらと同じ空間でメシ食うの。私は白パン青シャツ連れは清潔なワンピでどこをどう取っても身奇麗な好一対だというのに。

そう、私があまり和食にお金をかけたくない理由はこういうところにあるんですよね。同じ金額をフランス料理に投じれば、非日常的な空間で老若男女皆がドレスアップして絵のような食事を楽しむことができ、味わい以外の文化的な何かに価値を見出すことができる。それなのに、和食になった途端に金だけはあるギラついたオッサンとかが集まって来る。これじゃデートで女の子をお連れできませんです。
閑話休題。ごま豆腐にウニ。うーん、ウニの味が薄い一方で、豆腐は結構なゴマゴマ感があってバランスが悪い。餡も結構な味の濃さで最初の一皿としてはどうでしょう。
 12時から時計回りにギンナン、アワビ、クリ、シメジ、カキのしぐれ煮、中央は車海老の芋寿司。ギンナンは季節感があってグッド、アワビは歯ごたえは悪くないものの風味付けに乏しくパンチが弱い、クリはまあクリである。シメジは味そのものよりも個体の大きさに目を見張る。カキのしぐれに煮はカキ自体の旨味に寄り添うような味付けで絶妙な味わい。芋寿司は、うーん、普通にゴハンでいいかなあ。
 鱧と松茸の土瓶蒸し。いいですね季節感に正対する料理。
 なんですが、松茸は香りに乏しく、鱧も火が強すぎたのかグズグズになっておりガッカリ。まあ、出汁自体を楽しむものなんだこの皿はと自分自身を強制的に納得させる。
 手前は明石の鯛、奥は大分のカンパチ。カボチャの月にダイコンのウサギ。カンパチは脂がぽってりと乗っており、この食材を見つけ仕入れてきたご主人の審美眼には敬服する。しかも厚切りドンドンドンでポーションもバッチリで、文句のつけようがございません。
 ミョウガちゃんを脇にやり包みを開くと
 秋刀魚と松茸のサンドイッチ。これはわかり易い。誰がどう見ても食欲の秋である。旨味・甘味・苦味のバランスも的確で、それらを包み込む松茸の香りも申し分なし。ただ、ただですよ、京料理ってこんなわかり易い、誤解を恐れずに言えば下品な調理、するんでしたっけ?あまりにも単刀直入すぎる秋の味で大衆に迎合しているような気がします。極めて俺のフレンチ的なベクトルで残念。
 子持ち鮎。すんごいボリューム。100g以上はあるんジャマイカ?残念ながら、悪くはないが良くもない。それらに胃が占有されてしまうのは少々残念。
 全体的にポーションが大きいという意味ではお酒が進むのです。
 キノコのお吸い物。満を持して登場した割には香りも旨味も限定的。意図を汲み取ることができませんでした。
 白子の天ぷらに万願寺唐辛子。濃厚かつクリーミィで味蕾を一直線に包み込む。うめーうめーおかわりだ!
 お食事にはコシヒカリの新米が炊き上がりました。
 まずは何も合わせずにお米そのものを味わう。甘味に溢れ実に美味しい。こういうのを出されると、プロと家庭料理との違いを思い知らされます。
 ごはんのお供にお漬物軍団、赤だし、おじゃこ、イクラ、ハラス、海苔。たくあんがフレッシュさを保ちつつも誠に品のよい漬け込み具合で参りました。ハラスは旨味と脂身が一心同体となりお米が進むのなんのって。
 だがしかし、ゴハン論争を統べるのはイクラにおいて他ならない。御意見無用。
 デザートはスイートポテトにマスカット、抹茶のアイスクリーム。おや、スイートポテト、やるじゃないか。基本的に和食店のデザートには期待していないのですが、当店のそれは思いのほか説得力がありました。
食べ切れなかったゴハンはオジャコをまぶしてオニギリに。明日の朝食が楽しみです。

ということで、期待したほどではなかったなあというのが正直な感想です。何よりも客の品位が低すぎた。どうだった?と連れに尋ねると「評価対象外。隣のオッサンの食べ方が汚すぎ。店員に横柄に絡む所もすごく嫌。えらそーに薀蓄たれてるけど、でもお前ハゲじゃんって言ってやりたかった」。そう、味よりも客層が気になってしまう、そんなお店でした。

大将がまだまだ若く、店内に緊張感を張り巡らす貫禄が足りないのかもしれません。そのような隙を突いてグダついたオッサン共が集まって来るのかもしれません。

別に客に緊張感を強いる店を礼賛するわけではないけれど、少なくとも店と客が互いに料理に真剣に向き合う、そんな雰囲気がこの価格帯には相応しいと必要だと私は考えているのです。

そういう意味では10年後が楽しみ。当店の動向を陰ながら見守り、再びお邪魔したいと思います。


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前述した通り、和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。