【追記あり】ツシミ(TSU・SHI・MI)/神泉

日本初のゴ・エ・ミヨにおいて、今年のシェフ賞2017を受賞した都志見セイジシェフ。食べログのポイントは4.42(2018年2月)と、日本トップクラスの人気を誇るフレンチレストランです。
予約が取れない理由は1日1組しか客を受け入れていないから。先日のエテもそうですが、このようなスタイルの店では満足する可能性が高いので、この日を指折り数えて楽しみにしていました。
最初にシェフからの挨拶と、料理についての説明。『ニッポンの大地で生まれる全ての野菜が主役となる料理』がコンセプトであり、『全ての料理の主役は野菜であり、肉や魚などは野菜の引き立て役に過ぎない』。ミッシェル・ブラスの野菜コースとはまた違った展開が期待できそうです。
ウェルカムドリンクとして『大地の茶 香りで愉しむNIPPONのエネルギー』。野菜の切れ端などを集め、発酵など手を加え、ドリップで入れる野菜茶です。塩分こそは無いものの凝縮された野菜の旨味が爆発。お茶というよりもポタージュであり、これだけで成立した野菜スープでした。
大分県の安心院葡萄酒工房が手がけるシャルドネ主体のスパークリングワイン。色が薄くスッキリとした香りと味わい。万人受けする味覚であり、スイスイと飲み進めることができます。
アミューズは『Salutation 会釈』。右のあやめ蕪にはアンキモが練りこまれており、コッテリとした風味とカブの清澄な味わいが同居しアミューズに最適。左は厚岸のブランド牡蠣のカキえもん。凝縮された海の豊かさにビビッドな酢の風味。主題は菊とのことでしたが、やはりカキの圧倒的な風味に目が行ってしまいました。
アミューズ、続く。黒豆のクリームをサブレで挟んだもの。黒豆の地味溢れる味わいにアンチョビの鋭い塩気と旨味が響く。これは何個でも食べたい逸品。

ちょうど良いタイミングで泡を飲みきり次の料理を楽しみにしていると、「申し訳ありません、次のお料理まで時間がかかりますので、もしよければもう少しお飲みになりませんか?」との申し出。鷹揚に頷き先の泡を引き続き楽しむ。
スペシャリテの『Introduction 農園2018 狂喜乱舞する小さな巨人たち』。60種類以上の野菜を用いた見目麗しい一皿です。数十席ある大箱レストランならまだしも、1日1組しか受け入れていないレストランでは歩留まりが気になるところ。

大変美しくはあるのですが、料理というよりも素材であり、ひとつひとつ目を瞑って食べればやはりその野菜の味しかしない。ガルグイユであれば複数の野菜を同時に口に含むので、食感や味わいの変化を楽しむことができるのですが、この皿は小さなフォークで一粒づつ味わっていくスタイルので、やはりその野菜の味しかしないのです。そういう意味で、タツヤカワゴエの開始1分のツマミとして提供するスタイルは期待値を上げない良い戦略だったのかもしれません。
合わせるワインは2015シャンテYA 甲州。樽発酵の香りが強烈で人工的に感じてしまい、私はあまり好きではありません。が、妻はおいしいおいしいと言っていたので、好みはひとそれぞれなのでしょう。
『黒いキャベツ』。若細魚(ワカサギ)を揚げたものに雪中キャベツをロールキャベツのように巻きつけ、芽キャベツやスミイカなどと同居させる。イカの旨味が爆発。これは旨い!ワカサギのホクホクとした食感とかすかな苦味、イカスミの支配的なコク。本日一番のお皿です。
ドメーヌヒデのマスカットベーリーA。微発泡どころかスパークリングワイン級に発泡しています。MBAはペタペタと甘く好きな品種じゃないのですが、泡により爽快感が添加されて美味しく頂けました。
『蒸』という名の料理。いわゆる高級肉まんです。
仔猪肉の肉の味そのものが濃くグッド。ビーツや四万十赤生姜を駆使したタレも良い。皆がおいしく安心して食べることのできる一皿です。やや腹が膨れてしまうのが難点か。

ここで再び「申し訳ありません、次のお料理まで時間がかかりますので、もしよければもう少しお飲みになりませんか?」との申し出。本日は2名での来店でこのテンポなので、人数を増やして訪れた場合、もう少しのんびりとするかもしれません。
『DASHI』。大量のウニが目を引きますが、主題はあくまで野菜ひいては出汁です。カツオ菜という、福岡県では古くから正月のお雑煮やお吸い物の具や漬物として使われている野菜が印象的。汁物に入れるとカツオ節がいらない程風味に富むことからこの名がついたのですが、この皿においてもその役割を充分に果たしていました。

ウニやハマグリなどの高級食材ももちろん美味しいのですが、この皿は料理名の通り出汁の素晴らしさが目立ちます。
山崎ワイナリーのピノグリ。コチラもやや発泡。果実味が厚い一方で、それほどグリっぽさはありません。どっしりとした風味であり先の出汁にぴったり。
『菜の詩~Autumn Poem』。自家製の松坂豚ベーコンや松葉ガニの旨味を軸として、オータムポエム(アスパラ菜)や黄花、ペコロスが彩りを添えます。確実に美味しくはあるのですが、ご覧の通りの見た目であり、高級もんじゃ焼きという印象を受けました。外観と味覚に大きな隔たりのある一皿です。
『塩味で味わうサラダ』。味の骨格はブランダードが担います。ブランダードとは「混ぜる」という意味で、鱈を牛乳で茹でジャガイモを加え混ぜてペースト状にしたお料理です。昆布〆の白子や厚切りの生タラコなどの味覚も迫力があり、サラダと言うには野菜に力の不足を感じました。
自家製のカラスミを添加し塩味を自由に調整します。これがうまいのなんのって。料理に合わせて味わうというよりは、これ単体でチビリチビリとやりたくなる。ああ、日本酒が飲みたい!
蟻の思いも天に届く。本当に日本酒が出てきました。勝山酒蔵の純米吟醸、䴇 SAPPHIRE LABEL。メロンのような香りが支配的な、ボリューム感ムンムンの1杯です。めちゃくちゃ好きだこの日本酒。また魚卵に対してムリにワインを出すのでなく、平然と日本酒に頼る割り切った関係も私は好き。
パンは『小麦と米の進化形』という題名で、南部小麦とヒメノモチというもち米を用いて作られたものを。付け合せにはスモーククリームチーズにヨーグルトを混ぜたものに古代紫黒米。フレンチトーストのような味覚であり間違いなく美味しいのですが、このタイミングでは腹が膨れる。やはりパンは序盤から左手に常備して、ちびりちびりやりながら満腹中枢の調整を図るという選択肢が欲しい。
『大根の水』はおでん大根を用いたシチューのようなもの。もちろんこれ単体で食すわけではなく、
金目鯛と共に頂きます。この金目鯛は極上の品質であり、あまりの美味しさに狂喜乱舞。『大根の水』には申し訳ないですが、やはり大根よりも金目鯛に舌が行ってしまいました。
宮崎の都農ワイン。シャルドネです。柑橘系の香りと酸味が強い。料理がコッテリとした味わいなので、もう少しボリュームと樽のあるワインを合わせるほうが私は好き。
メインは『大地』。アオクビです。この鴨が正統的な味わいであり実に美味しい。付け合せ(ではなくコチラが主題か)のゴボウやアワビダケ、ホウレンソウとのバランスも良い。トリュフの使い方も上品であり、模範解答のような一皿。
合わせるワインは『2015 ボーペイサージュ ツガネ ラモンターニュ』というメルロ100%。非常に手に入りづらいワインとのことでしたが、メルロとは思えないグルナッシュのような味わいであり、鴨にぴったりとは言い難い。希少性と味わいは必ずしも一致せず、個人的にはあまり好きじゃない1杯でした。
デザートの1品目は『運命のGoat milk』。山羊ミルクが主体であり、あまおうやアロエと共に食します。品の良い乳の甘さと果実の風味が絶妙であり驚くほど旨い。カンパリの爽快感が心地よく、カンテサンスのアレよりも全然好き。
デザート2皿目は『干し柿のクリエイション』。あんぽ柿、ガトーショコラ、アーモンドマカロン、シリアル、紫干芋などが幾重にも折り重なり、食感と味覚の変遷が楽しい。抹茶を従えた柿酢シャーベットには目の覚めるような清涼感があり、全体としてまとまりと対比が感じられる逸品でした。
合わせるワインはミード(蜂蜜酒)。先のデザートにまた違った甘さが加わり美味しかった。もう少し量を飲みたかったかな。
〆に当店オリジナルブレンドの紅茶を頂きごちそうさまでした。

なるほどイノベーティブなコンセプトであり、豪快奔放なフレンチというよりは、繊細な和食に近い味覚。ただ、似たような野菜料理が連続するので途中から飽きてきます。シェフの腕前は確かでしょうから、また違った業態、例えば正統派フランス料理のお店なども出店して欲しいところです。

勘定書きの明細を見て落胆。「申し訳ありません、次のお料理まで時間がかかりますので、もしよければもう少しお飲みになりませんか?」で出されたワインが、ちゃっかり別料金として付けられていたのです。

これまで私は国内外のフレンチレストランに300軒以上お邪魔しており、幾度と無くペアリングをお願いしてきましたが、このような形で追加料金を請求されたのは生まれて初めてです。それも、「申し訳ありません~」のように、お詫びとして的なニュアンスを含ませていたくせに、です。

オーナーの方針なのかサービスの独断なのかは知りませんが、食後の満足度を著しく削ぐ手口ですね。このような策を弄して小金をせびるぐらいなら、正々堂々と値上げするなり、「追加料金になりますが」とはっきり言えばいいのに。私は後出しジャンケンが大嫌いだ。

「たかだか数千円じゃないか、ケチケチするなよ」と思う方もいるかもしれませんが、これは金額の大小の問題ではない。私がたとえ1兆円持っていたとしても同様の憂鬱を抱えたことでしょう。最後の最後で台無し。ガッカリだ。

<追記>
記事をアップした翌日、都志見セイジシェフよりお詫びのご連絡を頂きました。

「お客様にできる限り快適にお食事の時間を提供することを目的に、あまり金銭のことを口にしたくないという私の気持ちもあり、」というのが立脚点であり、なるほどそれはひとつの価値観です。確かに接待やプロポーズなどを考えると、彼の言うことはもっともです。

追加分については返金を申し出てくださり、また、お店として早急に改善に取り組むとのこと。実に真摯な対応であり、前へ進む勇気がある。才能の無い人間があるふりをする対応とは訳が違いました。

機会があれば、改めてお邪魔しようと思います。なんたって、あの『黒いキャベツ』は絶品なんだから。


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