シェ・コーベ/八事(名古屋)


恐らく現在、日本で最も話題性のあるフレンチレストランはスガラボ。当然に予約は紹介制かつ争奪戦なのですが運よく私も滑り込むことができ、希少性が高いというバイアスは全く抜きにして、めくるめく最高の味覚を楽しむことができました。

そんな折、「スガラボの須賀洋介シェフの実家がフランス料理屋を営んでいる」との情報を入手し、大倉忠義の鳥貴族を行脚するストーカーヲタよろしくご実家まで遠征です。
Chez KOBE。戦前、日本郵船の旅客船で料理長を務めていた須賀哲夫シェフが1950年に洋食店「神戸屋」をオープン。その後2代目の須賀邦一郎シェフが1978年に当店をオープン。現在のオーナーは3代目であり、実に須賀洋介シェフのお兄さんにあたります(写真は公式ウェブサイトより)。
ウェディングでもできそうな趣のある一軒家。ただし、歴史がある、を通り越してややくたびれた内装とも言えます。THE KAWABUN NAGOYAのようにリニューアルしたほうが、イマドキの結婚人にはウケるでしょう。
アミューズにはアンチョビとサワークリームが注入されたシュー。ピカールにもありそうな標準的なものでした。
その日のうちに東京に戻る必要があったので、巻きでお願いしました。酒量も控えめ。ブルゴーニュの白が1,400円。この手のレストランにしてはグラスワインが安い。
タスマニアサーモンのミキュイ。基本に忠実。真っ直ぐに美味しいです。オニオンやキンカンがアクセントに添えられており、フヌイユ(フェンネル、ウイキョウ)のソースも纏まりが良い。
左上は有塩バター、右上は桜チップで燻製したバター、左下はリエット、右下はオリーブオイルにバルサミコ。

リエットは完全に勝利ですね。カレー的なスパイスで風味づけされており量もたっぷり。スモークバターは香り高く面白い逸品。
パンは上々。特に右の柔らかいものが良かったです。各種フレーバーでややこしく造られているわけではなく小麦粉1本勝負の味だったのですがとても美味しかった。
サバのミルフィーユ仕立て(?)。下層にパイ、中層にインカのめざめ、上層にはサバ。ソースにバジル・バルサミコ・トマトなど。これは微妙。各食材の味わいは悪くないのですが、それぞれがバラバラに存在しており、ひとつの皿として一体化していません。取り合わせの妙に乏しかった。
カブのスープ。漂うカブの甘い香り。カプチーノ風にブクブクされており口当たりが良いです。

味わいは油脂や乳製品が多い(?)のか、若干のもたつきが見られました。コッテリとしており量も多く腹が膨れます。
メインはオーストラリアのラム肉。硬派で大ぶりなラム肉が2本。健康的な赤身と特有の香りを湛える脂身。ストレートど真ん中に美味しいです。ナスのピュレやジュ(肉汁)のソースも正攻法。このまま料理学校のテキストに掲載できそうな味です。
ワインはブルゴーニュの赤。たっぷりに注いでくれてラッキー。
デザートはフォンダンショコラを選択。
オーブンから出たばかりのフォンダンショコラは見た目も味わいも完璧です。チョコの甘い香りが鼻腔をくすぐり、とろりと食感を楽しむ。本日一番のお皿です。
小菓子も王道を行く味わい。
コーヒーで〆てごちそうさまでした。

スガラボにはバーグドルフ・グッドマンのような感受性を感じたのですが、当店はその真逆を行く、セオリーに忠実なお店でした。歴史を確実に守る味わいであり、言い換えると北島亭的に古臭い。

しかしこれは料理人の感性を否定しているわけではなく、この店のコンセプト、もっと言うと世間が当店にはこのような料理を求めているのでしょう。披露宴の料理をすごく美味しくしたような印象を感じました。

これはこれでアリですが、スガラボ的なセンスを期待していくと全然違うので、フラットな気持ちで臨むのが良いと思います。


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