青草窠/広尾


昨年のみかわ是山居に引き続き、親しくしているご夫婦にご招待頂きました。「タケマシュランの全記事を確認して、○○さん(私の名)が行かれてないお店を予約しておきました!」と頼もしい。
せいそうか、と読みます。読めないし、書けない。「窠」という字は当店にしか用いられることが無いのではなかろうか「阜」が岐阜にしか用いられないように。
天現寺すぐそばのミシュラン2ツ星。今、「天現寺」が変換できず驚きを隠せません。こういう時は面倒臭がらず、すぐに辞書登録することが人生を効率良く過ごすコツです。
1歳の子連れであるため個室です。「子供がいると、どうしても個室で地べたに座れる店ばっかりになっちゃいますね」とご主人。それでも外で食べることに熱意を持ち続ける。家族揃って彩り豊かな人生である。
紅ずわいがに、まいたけ、かぼちゃ。はっきりとした出汁が仕込まれており、カニは当然のこととして、かぼちゃの骨の髄まで味が沁みている。この時点でこの店はイケるぞと思いました。「カニ食べるのは初めてだね~」と、末恐ろしい1歳児である。
ごま豆腐とホタテのお椀。ゴマの風味にムッチリとした舌触り。厚ぼったいホタテには磯の香りがたっぷりと含まれており、火の通りも絶妙。スープも申し分なく、一同唸ってしまいました。できることならばおかわりを。
伊勢海老に冷製のナス、出汁のジュレ。伊勢海老は間違いの無い味わいですが、驚きも無く無難な調理といったところ。ナスは繊維に1本1本にまで味が沁みており、これが料理だと言わんばかりの逸品です。
もち米の上にはクリ。更にはマイタケをトッピング。その名の通りモチモチと食感であり、秋を丸ごと頂きます。ワガママを言えばマイタケではなく松茸を。
八寸は12時から時計回りにブドウの白和え、生麩の味噌田楽、卵焼き、小夏、ほおずき、焼き昆布、エビとヤマイモすり潰した磯辺巻き、サツマイモの天ぷら、厚揚げ。

印象が強いのは卵焼きと磯辺巻き。見事な出汁を内包した卵の高貴さといったらない。磯辺巻きは期待に応える秀作で、エビの旨味とヤマイモの食感、海苔の香りが渾然一体となって溶けていく。
日本酒は立山。軽快な口当たりと淡麗な味わい。食事を邪魔しない名脇役。
焼き物はのどぐろ。トッピングとして新タマネギとゴボウです。のどぐろの脂がどこまでも高潔に伸びてゆく。白身魚のトロと言われる所以ここにあり。ゴボウも野趣溢れる味わいで大好物。特有の土臭さが食欲を刺激してくれます。
イチヂクの西京漬けにギンナン。ある意味一番驚いた皿かもしれません。こんなに品の良い西京漬けがあるか?ブラインドで食べればパリあたりの新進気鋭のパティスリーの一皿のように感じてしまいます。イチヂクの色合いも見事であり、来週あたりこの色のシャツを買おうと心に決めました。
鰻と湯葉を支えるのはレンコンもち。ここのところ焼いた鰻しか食べていないので、このような調理は新鮮でした。上品に煮込まれた鰻はフランスの鰻料理を食べているかのよう。湯葉も清潔な味わいで大満足。

特筆すべきはレンコンもち。先のゴボウとはまた違った野性味と独特の食感。高級食材だけでなく調理の妙もレストランの楽しみのひとつです。
食事は食用の菊に梅雑炊。梅の風味がどこまでもエレガントであり、米の一粒一粒にまで行き渡ります。1歳児は無言で口に含み、「うむ」と頷く。将来の山岡士郎である。
お漬物もたっぷりとした量であり、残してあった日本酒の友として最適。酒飲みで良かったと思うひと時。
甘味は水ようかん。なのですが、私の知っている水ようかんとはかけ離れた物体であり、もしかして世界で最も柔らかい固体ではあるまいか。

皿の上では辛うじて形を保っていますが、舌の上に置いた瞬間に液状化現象が発生する。これは水ようかんとは全く別の、まだ日本語に無い名詞を授けても良いかもしれません。
抹茶も出して下さいました。こういう時に百点満点で飲める人に憧れる。高校時代は茶道部とか超ダセぇと思ってましたが、今となっては最も教養深い部活であり、兼部でも良いから足を踏み入れておけば良かったと後悔。

たっぷり2時間かけてごちそうさまでした。良いお店です。お椀と水ようかんが印象的でしたが、その他も全てがきちんと美味しい。

後々調べてみると、招福楼の方々が独立されて始めたお店でした。その中にはかの「松川」の主人も。なるほどなあ。後からものすごく納得しました。

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