ジャニス・ウォン/新宿

JANICE WONG。「アジアベストレストラン50」にてアジア最優秀ペストリーシェフに2013年、2014年と連覇した女傑(写真はTHE WORLD'S 50 BEST RESTAURANTS公式webサイトより)。シンガポールより満を持して世界へ進出。その橋頭堡として選ばれたのは新宿の地です。
新宿南口ニュウマンのエキソトです。ヘンな立地。甲州街道に面した改札の並びなんです。家賃高そう。デザートと酒だけで勝負するのであれば、もっと不健全な土地のほうが良いと思うのだけれど。
近年流行の劇場型コの字型のカウンター。他、ボックスシートのテーブル席もいくつかあって、ゆっくりお茶したいのであればテーブルのほうが良いでしょう。

さて今回は旗艦コースであるデザートデギュスタシオン5を注文。デザート5種で5,000円のコースです。またデザートそれぞれにマッチさせるペアリングのコース2,400円も併せて注文です。
レモンエクスプロージョン。レモンのトロりにドンパッチ。台座はホワイトチョコレートです。ドンパッチの使い方はレフェルヴェソンスエキュレと同じであり、特に驚きはありません。
グアバソルベ。グァバだけでなく、アボカドやバナナも練りこまれています。これはバナナの丸い甘さとアボカドの緑の脂が主張の強いグァバを包み込み美味しかった。

注文後、衝撃の事実を知らされる。「ペアリングの殆どは日本酒」。ううむ、日本酒を数口で2,400円って高くないでしょうか?また、めちゃくちゃ日本酒に詳しいシンガポール人というのもあまりピンと来ない。わざわざ日本酒の本場で慣れないアルコールを使用する意味あるのかなあ。
疑り深い気持ちを抱えながらスパークリングの日本酒で乾杯。永井酒造の水芭蕉、純米吟醸です。フルーツの香りと仄かな甘さ。酒としては認めるのですが、泡にする必要は無いと思います。
ポップコーン。ポップコーンのパルフェにパッションフルーツのソルベ、ニョロニョロは柚子のパルフェ。仕上げに粉状のポップコーンに塩キャラメルソース、ザクロのソース。甘味と塩気が織り成す巧みな一皿です。

ただし、ポップコーンを主題に添えて粉末として使用するあたりはどうしても81のプレゼンテーションを思い出してしまい、集中して味わうことができませんでした。正直G.H.CRETORSのポップコーンのほうが本質的には美味しい気がします。
鶴梅ゆず&グレイグースウォッカ。この液体の柚子ジュース含有量は50%を超えます。贅沢で高貴な味わい。パンチ力のあるウォッカも爽やかさを後押しし、本日一番の飲料です。ただ、先ほどの皿と合うも何も、単に構成要素を分離しただけであり、そりゃあ合うよな、という感想。
味噌マスタード。とにかく味噌が支配的。味噌とキャラメルってすごく合うのね。味噌のクランブルやソルベに海藻などと、これは人生で初めての取り合わせです。しかもきちんと美味しい。驚いたのはマスタードのメレンゲ。本当にマスタード味で思わず笑みがこぼれます。コンセプト、味、いずれを取っても素晴らしい一皿でした。
寺田本家の花啓く。これは熟成が進み過ぎていて好きじゃありません。味噌と合わせたいのは理解できますが、さすがにこれはやりすぎです。
バラとベリーパンナコッタ、ライチ風味。結構な量のパンナコッタが敷かれ、種々のベリーにバラ風味の泡。酒粕のソルベにアクセントにバジル。仕上げに液体窒素で固めたディッピンドッツ的な粒アイスを散らします。イスパハンの再構築ですね。バラ×ライチというだけでピエール・エルメを連想してしまう。彼女は昔、彼の元で修行をしていたようなので、彼へのオマージュということで納得することにしましょう。
新政 Lapis 26BY。微発泡です。個性的に明るい味わい。柑橘系の香りもたまりません。デザートは脇に置き、見事な日本酒です。
チョコレートH2O。チョコレートの水分含有量を高めたエアリーな一品。冷やしたぬーぼーのようなもの。悪くないのですが、ショコラティエのショコラ、例えばJPHと渡り合えるかというと違う。アクセントにカラマンシー(マレーシアのライムみたいな果実)のソースは印象的でグッド。キャラメルのアイス(?)や柚子のソルベが再登板で、最後の最後でネタ切れ感。
小笠原味醂「一子相傳」、エライジャク・レイグ、レモンピール。バーボンをみりんで割った1杯。花啓くと同様にやりすぎ。どうしても味を重ねたいのであれば、普通のココアでいいのになあ。
〆は響のチョコテリーヌ。シンプルで滑らか。これは意外と好き。

デザートの限界を感じた一夜でした。確かに美味しいし工夫も認めます。ただ、甘さという制約に縛られながら立て続けの5皿で客を満足させるのは至難の業。きちんとしたレストランの最後に「味噌マスタード」のような物が1品出てくれば間違いなく感動するのですが、デザートのみのコースでひとつアタリがあっても、そりゃあ数打ちゃ当たるよね、という感想になってしまう。

他方、個別具体的に見ても「味噌マスタード」を除いては、どこかで食べたようなものばかりで特に驚きはありませんでした。さらに、キャラメルと柚子を使い過ぎです。味わいのボキャブラリーが貧弱。食材にもっと幅を持たせるべきです。「JANICE WONGはこれまで味わったことのないような、様々な食感、味覚、温度の組合せでその場でしか食べられないおいしさをお届けします」と標榜するには無理があります。

値段も高い。デザートと飲み物で税込8,000円ですよ8,000円!甘味についてはまだ納得がいきますが、酒については大したペアリングでもないのに2,500円前後は許容範囲外。というわけで、当店の賢い使い方はアラカルトで「味噌マスタード」だけを注文する、コレですね。

六本木あたりで酔客をアテにして、もっと小体な店構えで従業員も絞って、飲み物込み5,000円!みたいにするともっと流行りそうな気がします。味そのものは悪くないのだから。

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男、かつ、酒飲みの割にスイーツも大好きです。特にチョコレートが好きですね。JPHが基準なので、スイーツの評価は厳し目かもしれません。