はじめ/麻布十番

「リッツにいるの。今から出れないかしら?」とのお誘いを頂き、10分で一之橋に着くよ、と飼いならされた犬のように返事。

鳥居坂近くの雑居ビル1F。中の様子を伺うことのできない木の扉を開くとカウンターに大皿のお惣菜が並ぶ当店。「わあ!嬉しい!こういうお店に来たかったの!」と無邪気に喜ぶ可愛い連れ。「最近、フランス料理とワインしか摂ってないから、すごく嬉しいわ」と、可愛くないことは言わんでよろしい。
生ビールで乾杯。ビールって本当に完璧な液体ですよね。食前酒にも食中酒にも的確で、安い。安定している。「お通しはどうしますかぁ?」と、カウンターの大皿4種より好きなものを選ぶ。
私はイカ。サトイモのネトっとした食感がイカの香りと旨味を下支えして美味。冷めてもイケるって良い調理。
連れはチクワと大根。大根が形を保ちつつもジュンワリと煮汁を湛え素晴らしかった。何事も凡事徹底することが大切ですな。
艶っぽいアンキモ。フォアグラとはまた違った滑らかさで大好きです。「あんこう鍋が好きでさ、時々家でも作るの」とのお言葉があったので、月島にあんこう鍋で有名なお店があるよ、と伝えると「それぐらい、知ってるわ」との回答。スタンスが全くブレない。「キャア行ってみたい連れてってキュルルン☆」という返事を期待していた私がバカでした。
ハスのはさみ揚げ。あつぼったいレンコンにあつぼったい衣。中は牛ひき肉?一口サイズにカットされており、冷めても成り立ちがしっかりしている作り方で、のんびり食べるには最適のツマミです。
イワシのシソ巻き揚げ。イワシの頼もしい苦味にシソの清涼感が相俟ってお酒が進みます。
会話が弾み写真を撮り忘れてしまいましたが、これのほか都合3種類の日本酒を頂きました。全て300mlの小瓶であり、冷蔵庫から取り出されます。もちろんフレッシュで量が不安定になることもないという意味で公明正大な提供手段なのですが、ちょっと絵的に萌えないなあ。やっぱり一升瓶から表面張力注ぎが日本酒にはしっくりくる。

ところで、日本酒の小瓶ってなんで300mlなんですかね?2合=360mlが自然なはずなのに。
モツ煮込みは標準的で手堅い味わい。鈴木屋のように透き通ったスープでもなく、名古屋のように味噌ドロドロでもなく、ちょうど良いです。

その後、10人を超える団体客が入ってきて大宴会が始まり、店員も特に注意する様子もなかったので、私がイライラする前にお店を出ることに。料理や酒、支払額には文句ないのにこの終わり方は酷く寂しい。まあ私もおにまるで、他のお客様から見れば傍若無人は振る舞いをしているかもしれないので、それはお店に客選びの判断を委ねることとします。

23時前だったので、もう少し飲んで帰りましょうということで、ウルトラチョップへ。
カウンターで行儀良くビールを傾けます。マスターズドリームって美味しいですよね。ドイツビール志向で非常に香ばしい。泡はキメ細やかな一方で、味わいはビターで濃厚。大好きです。
お通しはメゾンカイザーのパン。「メゾンカイザーの」って自慢する必要はあるのかなぁ?「A5ランクのっ」とか「○○県××産のっ」と滅多矢鱈に主張するお店は、どこか料理に自信が無いのではないか、と穿った見方をしてしまう。
トリュフソースと柚子胡椒ソースのラムチョップを1本づつ。手堅い味わいで、これで1本480円という価格設定に大満足。
「じゃあ、あと1本ぐらいでちょうど良いかしら」と、また"ちょうど"。スペインのモナストレル。力強いアタックで好きなタイプ。これだけの味わいのワインをお店で飲んで1本5,000円を切るのは心が躍ります。

「キャールって、あるじゃない?」キャールとはワインの4分の1ボトルのこと。「あたしは一時期、毎朝クリスタルのキャールをラッパ飲みながら掃除していたの。今から考えれば、家政婦雇ったほうが安く済んだわね」。

姐さん僕なら8,000円で掃除しに行きますよ、という言葉を飲み込み「良い思い出じゃないですか」という紳士のようなコメントと共に夜は更けていく。

ちなみにクリスタルとはルイ・ロデレール社のすげえ高いシャンパーニュであり、つまり毎朝家事がてら10,000円ぐらい飲んでいたってことです。後の真中沓子である。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。雑誌なので売り切れ注意!

はじめ
夜総合点★★★☆☆ 3.0