MOTIF/京橋

「バレンタインはアタシが全部エスコートしてあげる」ということで、私からは一切の準備をする必要はなく、王侯貴族のような待遇を受けるという夢のような一夜の始まりです。もちろん手ブラ。
「アマンのカフェで待ってて」イケメンか。それにしても丸の内は画一的な建物ばかりで迷ってしまう。目と鼻の先のはずなのに、電車が着いてから辿り着くまで15分ぐらいかかってしまいました。
大手町にアマンがオープンしたとのことで、世のアマン・ジャンキーが沸きに沸いていますが、まあ、東京に住んでいるのであればそうそう食指が動かないですよね。そんな方のために、宿泊客でなくても利用できるカフェが用意されているのです。私のように一度しか泊まったことの無いクセにアマン通気取りなバカにはもってこい。
「さっきまで恵比寿のモナリザでワインだったから、ちょっと休憩させて」ということで、ビールをソーダで割ってレモンを絞るというEXILEなら100杯は飲みそうな飲み物で心を落ち着けます。
コースターが鉄製で、葉脈部分がガタガタで今にもグラスが倒れそうなのが怖い。

「ねえ、明日の朝に死ぬとわかってたら、最後の晩餐、何にする?」と唐突に問われたので、飛行機でひたすら東に向かって明日の朝が来ないようにするするよ、と答えると「質問に答えて」と鋭い眼差し。仕方なしに、ナリサワでロマネコンティ垂直飲み、とだけ答えると、「合格。『お茶漬け』なんて言うつまんない男、明日を待たずに今すぐ死ねって感じ」。

その後、夜の予約が全て埋まっているということで、17時にお店を追い出される。それでも宿泊客と思しきラフなゲストはそのまま居座っており、圧倒的な階級の差を見せ付けられます。私も当店にビーサンで来れるようにならないと。
タクシーでPCPMビル7階のMOTIFへ移動。ド高層階ではなく中層で一味違う眺め。これもまた一興。見て見て電車がいっぱいだよ新幹線もあるよ。
一番好きな食材は何かで議論。私は当然にエビと答えたのですが、彼女も同じであったらしく、互いにいかにエビを愛しているかを演説し合い危うく取っ組み合いの喧嘩になりそうでした。

じゃあ二番目はということで私はタマネギと回答。彼女はジャガイモ。互いを認めあった瞬間です。ここでうっかり「ウニ」のように短絡的な食材を挙げたら怒って帰られたかもしれません。
オツマミが地味に美味しかった。きちんとしたバーって、こういうところが抜け目無いですよね。
夜の帳が下り、ダイニングルームへ。今夜の主役は私であるため、中央ソファ席のど真ん中に通されました。写真は公式HPより。
シンプルでスタイリッシュなテーブルコーディネート。インターコンチのピエールにしろペニンシュラのピーターにしろ、最近のラグジュアリーホテルのメインダイニングはクロスとかかけないんですね。
なぜかお店からETROの石鹸がもらえました。自宅で使ってみると、泡のきめが細かく、さすがは高級品。普段使いの坊っちゃん石鹸とは違う。
シャンパーニュで開演。繊細な泡がするすると喉を伝って胃袋を刺激します。
そば粉のガレット。キノコと蕎麦の香りが芳醇。うずらの卵も名脇役。私好みの幕開け。
PBのSBは規則正しい味わいでOC。
え?いきなりロールケーキ?と思いきや、バターでした。ここ数年ずうっとバターが高騰&品薄が続くので、このバタ塊は数万円の価値があるのでは。それにしてもいいかげんに品薄状態は改善されないものでしょうか。ここまで問題をひっぱり続けるのは政治の怠慢。
パンは特長らしい特長が無いため数口に留めます。バターも思わせぶりな態度の割には標準的な味わいでした。
巨大なホタテ貝を手づかみで。これは悶絶するほど美味しかった。ホタテの味が厚いことはもちろん、カリっとした衣の食感も満点。それにしても、ワインはSBではなくカリフォルニアのボリューム感のあるシャルドネあたりが欲しくなっちゃった。
エビのフランに大量のウニを載せ、アメリケーヌソースで包み込む。これは食べる18禁。旨すぎて子供に与えると通風になるまで飲み続けるであろう。ホタテの双璧をなす出色の一皿です。
季節の野菜を蒸したもの。これは全然美味しくなかった。あまり季節を感じさせる食材ではなく浅い味。生ハムにもヘンにべちゃっと火が通って意図が不明。トリュフも意思は無くただ載せただけ。
オーストラリアのリースリングも微妙。暴力的な石油香が漂い、キューピー人形を溶かして飲んでいるかのようでした。それでも我々はガブガブと飲み続けるので、ソムリエが「す、素晴らしい飲みっぷりですぅっ!」と憧れていました。
百合根は素材に正直な味わいで間違いなく美味しいのですが、唐突感があってストーリー性に乏しいです。
アボカド大のホッキ貝。比較対象として私の人差し指をフレームに入れてみましたが、思いのほかプックリとした丸みのある艶やかな爪であることに気づく。
繊細に火を入れて柔らかさを残したホッキ貝の身。濃厚なバターのコクと結託し素晴らしい味わいです。リゾットとして仕立てられており、貝の旨味が米の一粒一粒にまで染み渡る。
ナパのシラーのロゼ。シラーのロゼって初めてや。全然シラーっぽくなくて面白かった。面白かったのですが、濃厚バターリゾットに合うかと問われると疑問符。
グラニテは何だっけ?
ポワールウイリアムを添加するのですが、結構なアルコールのキツさであり、あまり箸休めとはなりませんでした。
メインは豚肉。これまでのボリューム感のある調理と方向性が異なり、遠慮深く感じました。豚の取り得を上手に引き出し、野性味を抑えた透き通る肉質を楽しみます。焦がしたカブは目論見がようわからんかった。
さあお待ちかね、赤ワインです。我々は最後の一皿で1本新たに栓を抜くという肝硬変候補生。メインをつまみにここからダラダラと飲み始めます。
ジャガイモグラタンが嬉しい。先の会話を聞いていたのではあるまいか。いわゆる本当のジャガイモであり、地味に一番美味しかったかも。シンプルで優しい味わいで、ピノにも良く合う。
デセールは焼きみかんが主体。皮ごと食べます。普通に美味しいです。馴染み深い食材であるためか、せっかくの特別感が掻き消されるのがちょっと残念。
フロマージュブランは麗しいミルクの甘さで犯し難い気品があります。純粋で美味。大好き。
コーヒーで〆てごちそうさまでした!

食前酒を含めると4時間超の長丁場。私はやっぱりこういう食事が好きですね。味はもちろんのこと、空間や世界観、居心地の良さ。

彼女はそっと鍵を差し出し「部屋を取っているんだけど」というのは妄想で、2次会会場へ。


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MOTIF
夜総合点★★★☆☆ 3.0
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