epoque+ azabu (エポックプラス)/麻布十番

2018年6月にオープンしたばかりの新店。大阪の海老・蟹・貝をテーマにしたレストラン「ゑぽっく」が東京初進出です。東京で似たような食材専門店と言えば「うぶか」が思い当たりますが、当店はより高級志向である印象。年中無休のショウマストゴーオン形式であり、東京進出に向けての覚悟が伺えます。
照明が落とされたスタイリッシュな店内(写真は公式ウェブサイトより)。フロリレージュよろしくキッチンスタジアムのようなカウンターであり臨場感抜群。コースは15,000円と23,000円の2本立てであり、今回は後者を。
お酒はペアリングのコースを。8,000円~と、この手のレストランとしては破格の値付けです。乾杯のシャンパーニュも含まれるのが嬉しいですね。アルコールがお得すぎるので、酒飲みと下戸では印象が異なるかもしれません。
本日使用する食材と、奥の水槽から魚介類を取り出しゲストにプレゼンテーションするシェフ。これは豪華だ。23,000円のコース料理ということで若干ビビっていましたが、これだけの食材を用いるのであればリーズナブルと言えるでしょう。伊勢海老くんは未だ元気にビョンビョン跳ね回っており、思わず歓声があがります。
朝日をイメージした一皿で開演。完熟したマンゴーにフォアグラのプディングが詰め込まれています。キャラメリゼの香ばしさ、フォアグラのコク、マンゴーの太陽のような甘さが三位一体となって迫り来る。一口目から甘ったるい料理で大丈夫かと心配しましたが全くの杞憂であり、シンプルにわかり易く美味しかった。
2皿目はつい先ほどまで元気に動き回っていた伊勢海老くん。新鮮な身をタルタルにし、塩味としてカラスミを盛り付けます。
脇を固める色とりどりの薬味たち。ネギや卵黄は当然として、メロンやアボカドなども用意しているのが楽しい。味は見ての通り、当然に美味しいです。
合わせるワインはアルザスのゲヴェルツ。複雑なハーブの香りが先の薬味たちと調和してグッド。ちょっと甘さが目立ったかもしれません。
フカヒレのステーキ。スープはスッポンとカニ、ならびにカニミソです。世のありとあらゆる旨味を凝縮したような一皿であり、論理はさておき、脊髄反射でメタメタに旨かった。
この料理には日本酒がいいなあと考えていたところ、まさにその液体が供され狂喜乱舞。スッポンのネットリした旨味と相俟って実に良いペアリングでした。グラスの種類も1杯1杯異なるのが地味に凄い。
大ぶりの生牡蠣。海のエキスがたっぷり詰まったジュレで満たされており、シモムラのアレを想起させます。キャビアは海の塩味に変化球を与える理由のあるトッピングで印象に残りました。
日本酒、続く。当店の料理は特定のジャンルというよりは、あくまで「海老・蟹・貝」がテーマであるので、ペアリングのアルコールが自由自在。外国人を連れてくると喜ばれるかもしれません。印象としてはレフェルヴェソンスのデギュスタシオンとそう大差なく、価格は半額以下と、重ね重ねアルコールがお得である。
6時から時計回りに白トウモロコシのブランマンジェにウニ、ミル貝に明太子、ヤマイモに赤貝、ボタンエビ。白トウモロコシのブランマンジェにウニがいいですね。トウモロコシの甘味とウニのそれが一体化して実に伸びやかです。ミル貝に明太子は表記通りの旨さであり酒を呼ぶ。
大人のグラタンコロッケーバーガー。これでもかというほどカニの身がたっぷりと詰まっており、問答無用に美味しいです。クリームのコクもリッチであり、マックのグラコロバーガーとは別次元の料理でした。
ワインに戻ります。日本においてロゼワインはポピュラーではないのですが、当店は乾杯に始まり普通に出てくるのがいい。こんな暑っ苦しい夏に真っ黒なワインなど飲んでられるかい。
箸休めにガスパチョ。トマトの果肉、スープ、泡の3層構造です。素材の味が明確であり、ナベノイズムの最初の第一歩を思い出しました。
何か揚げているな、と厨房が気になっていたのですが、またとんでもない料理。手羽先にスッポンと花咲ガニが詰め込まれており、私が知る限り世界最強の手羽先餃子であろう。白眉は付け合せのハチミツとチーズ。シンプルな工夫なのですが、これが料理全体に一体感を持たせる人類補完計画のような役割を果たしており、記憶に残りました。
仲田晃司のミュジニー。これ、8,000円のペアリングで出るってすごくねーか?先の手羽先、特に花咲ガニの味覚ならびにチーズとハチミツのコクにピッタリであり破顔する。
ビッグサイズの車海老。カダイフを身に纏い軽やかに揚がります。ブリブリとした食感で見た目通りの美味しさ。付け合せのタルタルは毛ガニにキャビアであり、主役を食ってしまいそうな存在感。殊に旨味が強く、食べたという記憶が脳裏に深く刻み込まれる。
ナパのボリューム感のある白。ボーンと弾けるような樽香であり、先のタルタルにマッチします。
「青森名物のいちご煮を」ということで、目の前に並べられる海の幸オールスターズ。「いちご煮」とは、せんべい汁と共に八戸を代表する郷土料理であり、平たく言うとウニとアワビの吸い物。当店流のそれは、ウニ・アワビはもちろんのこと、伊勢海老、ハマグリ、ハモと、この世に並ぶものはない食材の豪華さです。
具材の素晴らしさは当たり前として、スープの旨さが大迫半端ないですね。レンゲが浮いてしまうのではないかと思えるほど比重が高く、並のトンコツラーメンよりも濃い。芳醇な海の幸が圧縮された液体であり、まさにチェックメイトな味わいでした。
〆の白はドゥメセの辛口。先のスープに比べると完全に力不足ですが、まあ、あのザンギエフを液体にしたようなヘヴィな代物に勝てる酒など存在し得ないでしょう。
スイカのグラニテにて終幕を告げる。マンゴーの朝日と対比し夕陽色なのが心憎い。
〆の食事は2種類から選択できるとのことでしたが、胃袋に余裕をがあったので両方頂くことにしました。まずは先のスープを用いたラーメン。目の前でシェフがトリュフをスリスリしてくれます。
天下無双というか何というか、どうしうようもなく美味しいラーメンですねこれは。ただでさえ旨味が強いのに、それに輪をかけてトリュフの香りが迫り来る。私にポリグラフが取り付けられていれば、とんでもない波長を描いたに違いない。
お食事2皿目は伊勢海老ダシのカレー。具としてカニの身がジャンガジャンガ加えられており、やはり極度の贅沢さです。意外にも辛味がしっかりとしており、プー・パッ・ポン・カリーのような印象を受けました。
デザート1皿目は桃。果肉とシャーベットの清らかな美味しさに心和む。シャンパーニュジュレもちょうど良いアクセント。
作りたてのバニラアイスクリーム。空気がたっぷりと含まれており、驚くほど軽い。どういう事情か全く冷たくなく、吸い込まれるようにスプーンが入り込んでいく触感であり、興味深い一皿でした。
ラスイチはシャトーギロー。ううむ、これまた良いワインだ。先のモモとのマリアージュはもとより、これ単体で蜜のような素晴らしい味わいでした。
お茶菓子も作りたて。小豆とクリームチーズの春巻きであり、デパ地下であればこれだけで立派な金額を請求できる質の高さです。甘味たっぷりのチャイにも良く合う。

実際にお邪魔するまでは「大阪の色モノ的なレストランが十番にやって来た」程度にしか捉えていなかったのですが、なるほどちょっと東京には存在しない、唯一無二のコンセプトに感じました。

上質な食材の美点を単刀直入に表現し、食べる側としては直感的に、脊髄反射に旨く感じます。「美味しい」というよりも「旨い」という表現が似合う味覚。最先端の調理技術を駆使したアヴァンギャルドな料理ではなく実利的な味わいであり、食後感は鮨や焼肉のそれに似ているかもしれません。シェークスピアの表現力を求めるというよりは、解かり易くただただ旨い。

飲んで食べて4万円という価格は決して安くはありませんが、食材の豪華さやワインの質を考えればある意味リーズナブル。原価率は相当に高いことでしょう。「能書きなど要らん。とにかく旨い料理を」というシチュエーションに最適なお店です。


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