レストラン ラ・カンサトゥール/御殿山


まずはコチラのやり取りをご覧下さい。
広辞苑の用例として載せたいぐらい爽快な拗ね方です。彼女は結婚式を間近に控えており、これが増税前の駆け込み需要というものなのか。

それでも確かに彼女とは随分ご無沙汰しており、彼女が独身でいる間にもう一度会っておこうかと酔狂な気持ちが芽生え始め、前からお邪魔してみたかったグラン・メゾンを予約。
Restaurant LA KANCATOUR。北海道苫小牧市で1970年に創業した老舗が東京に移転オープン。場所はカンテサンスのすぐ隣であり、店名も何となく似ているが面白い。東京のフレンチレストランとしてはトップクラスにアクセスが悪いのが玉に瑕。
結婚おめでとう、とシャンパーニュで乾杯。「やめてよ、あなたに関係ないじゃない」目を三角にして食ってかかる彼女。今夜はひと悶着ありそうです。
アミューズの凝り方に心躍る。左は増毛の甘エビにイクラ、トリュフのスクランブルエッグ。右はホッキガイとゴボウのムースのタルト。ゴボウが秀逸。滋味に溢れ良い意味での土臭さが荒々しく鼻腔に響く。
パンも北海道産の小麦を使用。とことん北海道産に拘る姿勢に舌を巻く。

次に会うときキミは立派な人妻だね。キミの新婚生活を邪魔するつもりは毛頭ないし、余計な誤解も招きたくない。しばらく会うのはやめにしよう。「ふうん、で、コレが最後の晩餐ってわけね」
フルーツトマトのムースにホワイトアスパラガスのムース。トップに流し込まれたジュレもフルーツトマトです。アスパラの優しい甘さにキリっとしたトマトの酸味がバランスよく調和。当店のシェフは本物です。この時点で今夜の勝利を確信しました。
白ワインはサンセールとブルゴーニュを1杯づつ。

「カレのこと、好きなのかどうか、わからなくなっちゃった。もちろん性格も収入も申し分ないんだけど、どうにもアガらないの」人はそれをマリッジ・ブルーと呼ぶ。
ズワイガニとカツオのグリルのミルフィーユ。凝ってるねえ。逞しい味わいのカツオの上にズワイガニのタルタルが密度良く詰め込まれ、周りの新鮮な野菜と共に口へと運ぶ。文句なしに美味しいです。
北海道産のジャガイモ、インカの目覚めのポタージュ。穀物の甘味の凝縮感。ここまで美味しいポタージュを飲んだのは久しぶり。

「最近よく思い出すの、前カレのこと。すごおく好きだったなあって。本当に好きだった。ま、将来性が無いと判断して切ったのは私なんだけど」朝顔の花一時。人間の恋愛はいつだってひとり相撲。
魚料理はヒラメのポワレ。これはイマイチですね。黒コゲかと見紛う程の勢いのある火入れであり、とうにピークは過ぎています。アサリの意図も全く不明。

ところで今カレと僕のこと、どっちのほうがが好きなのかな?聞いてから意味の無い質問をしてしまったと少し後悔。彼女は苦々しく爪を噛み、「あなたかもしれないわね」と目を伏せる。アナタカモシレナイワネ。
メインに私は和牛ハラミの直火焼き、連れは合鴨のローストを選択。するとサービスの方が「もしよろしければ半分づつにご提供できますが」と、水晶のようなお人柄。

和牛ハラミのソースに瞠目。こんなに旨いデミグラス・ソースがあるか?肉や野菜の濃厚な旨みが躍動し、ある意味ショッキングな味わいです。聞くと1970年の開店から47年もの間、火を絶やさずに守り続けているそうな。
合わせる赤はパンチのあるコチラを。状態が素晴らしすぎて大声ダイヤモンドです。恐ろしく官能的な香りが辺りに立ち込め、かといって味わいは決して下品ではなく、むしろ甘味とタンニンのバランスが傑作的。彼女も途端に上機嫌。ワインにはこういう力がある。
ワインが少し残ったので、北海道産のカマンベールを割り当てる。なるほどカマンベール・ド・ノルマンディに比べると深みに乏しく複雑性に欠けますが、これはこれで可愛らしい。
デザートはそのチーズを用いたスフレにジンジャーのシャーベット。印象としては自然派であり、シンプルにストレートに美味しいです。ややベリー系のパンチが強すぎるきらいがあるので、もうすこしスフレ自体のポーションが大きいほうが良かったなあ。
全てが北海道産で哲学があり、伝統を守りながらも進化を重ねる精力的なお店でした。ご馳走した人もご馳走になった人も思い出になるような料理。接客はやや慇懃無礼ではあるものの完璧なホスピタリティを発揮して下さいました。

店を出てタクシーを捕まえ彼女を見送る。彼女は私を向いたまま、笑顔を見せるでもなく手を振るでもなく、ただただガラス越しに見つめ合う。もうやめよう、既に世界は許されて、君も平穏な日々に帰って行く時なんだ。


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