ホテルリッジ(夕食)/鳴門(徳島)


指定した夕食時刻に部屋を出ると、既に車が待機しており、あたたかい笑顔で迎えられました。歩いても10分やそこらの距離なのにこの厚遇。大統領にでもなった気分です。
石庭を眺めながらの夕食。マジックアワーを通じた空の移り変わりも夕食の一部です。
せっかくなのでリッジのシャルドネで乾杯。ちなみにリッジとは米国カリフォルニア州を代表する名門ワイナリーであり、1986年より大塚製薬がオーナーです。酒屋で買っても10,000円前後はするボトルが当店では13,000円とリーズナブル。これがアメリカだと言わんばかりの強烈な樽の香り。バターと蜂蜜のニュアンスに甘味が膨らみ、ボリューム感に溢れます。
アオリイカを酒盗のエキスに浸し、焼き石の上で軽く炙って食す。面白いプレゼンテーションですね。スペインあたりでウケそう。
味はイカの歯ごたえと甘味のバランスが素晴らしく、酒盗のクセのある味付けもアクセントに丁度良い。この一皿でポールポジションを獲得です。
八寸は白バイ貝、マコモダケとオクラ、ヤマモモ、稚鮎、ハモ、ホタルイカ、トマトにキャビア、そら豆、鳥ミンチのパテ、鯛の棒寿司、生ハムチーズ。ホタルイカを軽く炙りそのエッセンスが凝縮。
慌てて日本酒を注文してしまいました。徳島の地酒、瓢太閤(ひさごたいこう)。
お椀はハモにジュンサイ。出汁が弱くパンチ力に欠けます。ハモは大ぶりで迫力があるのですが、個人的にそれほど前のめりになる食材ではないので、心拍数は維持される。逆に、ジュンサイの量を増やして欲しかった。
お造りはカンパチに鳴門のタイ、本マグロ。カンパチが圧倒的に美味。たっぷりの脂を湛えた身そのものが素晴らしく美味しかった。タイも逞しい歯ざわりかつマッチョな味わいで私好み。本マグロは間違いなく美味しいのですが、ここまで来て食べる必要は無いなとも思いました。
アマダイ。この魚の旨さには感服。翌日まで夢見心地に浸らせてくれました。調理も完璧で、素材の良さをそのまま上手に引き出しています。たたみいわしの素揚げによる強弱もグッド。文句なしに本日一番のお皿でした。
お凌ぎとして半田素麺。徳島県の半田地区(旧半田町)に伝わる手延べ素麺です。そうめんとひやむぎとの中間ぐらいの太さであり、素麺とは思えないほどのコシの強さが特徴。スープの旨味はノスタルジアの源泉。簡素ではあるものの記憶に残った一皿でした。
メインは阿波一貫牛。「肉の藤原」が手がけるブランド牛です。徳島県内で飼育された血統明確な黒毛和種を生産から販売まで手がけるという和牛界のユニクロ。とにかく肉の肌理が細かく、脂には適度な粘りがありました。かといってしつこいわけではなく、果物を感じさせる甘味が口の中に広がります。その円やかな味わいに、旨味とニンニクの香りが強いジュレが上手に割り込み総体としてアマダイに比肩するほど素晴らしい一皿でした。
〆にシラスごはんに赤だし、漬物。アマダイと阿波一貫牛の印象が強烈すぎて、ごはんものは記憶に残りませんでした。もう少し迫力のある具材があれば楽しめただろうな。
デザートはのフルーツ盛り合わせをジュレで固めたものに、ゴマのお汁粉。
ゴマのお汁粉が面白いですね。芳醇なゴマの香りに品の良い甘さを湛えた液体。1ダースほど買い込んで、毎日食べたいぐらいです。
サービスは中くらい。レディーファーストがなっておらず、ナプキンを置く方向が逆だったりと色々とチグハグ。一皿ずつ感想を求められるのも、自信が無いのかと穿った見方をしてしまいます。一生懸命なのはわかるのですが、ううむ、中身の豊富さが自然と外に出るのは時間がかかるのかもしれません。

食事については確かな技術に裏打ちされた料理が続き、コースの流れに違和感もありませんでした。素直に美味しく、また期待と思わせる実力が当店にはありました。東京の1ツ星店と比べても遜色なく、1泊10万円のホテルのメインダイニングに相応しい料理でした。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事
和食は料理ジャンルとして突出して高いです。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの和食ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い和食なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。

関連ランキング:その他 | 鳴門市その他