うなぎの美鶴/慈眼寺(鹿児島)


鰻と言えば名古屋浜松が有名ですが、水揚げ量が最も、そしてダントツに多い都道府県は意外にも鹿児島県です。そのほかお茶やミカン、カンパチなどの生産量も多く、鹿児島は隠れた食材の宝庫ですね。ちなみに宮崎県も鰻の水揚げ量が日本3位と大健闘。
さて、その鰻を食わせるお店として鹿児島県内でトップクラスに人気を誇るお店が『うなぎの美鶴』。鹿児島市の外れの山奥の僻地にあり、公共交通機関を使って訪れることはほぼ不可能であるため、旅行者はレンタカーに頼る必要があります。

ネット上の口コミを総合すると「11時オープンであり、それより前に到着しファースト・ロットに加わるべし。それを逃すと1時間以上は待つ」。しかしながら我々は飛行機の都合もあり、土曜日の11:30という目も当てられない時刻での到着。1時間待ちに耐えるためKindleの充電を満タンにして臨みます。
駐車場に車を突っ込み、ささやかな努力として妻を先に車から降ろし記帳台へと駆けさせる。しかしながら、首を傾げて車へと戻ってくる妻。すわ臨時休業かと戦慄が走ったのですが、「なんか、待たずにすぐ入れるっぽい」と拍子抜けな報告でした。

客入りは8割といったところ(店内においては手元の料理以外は撮影NG)。水槽の中ではウネウネと元気に鰻が泳ぎ回っており、注文が入り次第、大将がズバズバと血みどろにながら鰻をさばきはじめる様は圧巻。頭や背骨を取り除かれたというのに未だビクビクと痙攣を続ける元気いっぱいの鰻をそのまま焼き台へと並べていきます。冷静に考えると実に非道い仕打ちである。フランス革命でもここまで残酷な処刑は無かったぞ。
注文後15〜20分程度で料理が供される。私はうな重。と言っても重箱に詰められているわけではなく皿に並べられるだけであり、ややもすると焼魚定食のようです。
第一印象は『筋肉質』。箸で切るには一苦労の硬さを誇り、弾力的なバネもある。EXILEを鰻にするとこのような個体になるのではあるまいか。

口に含み歯を立てる。信じられないほどの反発力であり、ブルンブルンと激しい噛みごたえ。もちろんタイやフグなど弾力が自慢の魚はいくつかありますが、それは生で食べた場合の話であり、火を入れた魚類という意味では当店の鰻が世界最強を誇るであろう。
箸で上手に切り分けることは諦め、ごはんの上に載せつつ直接かぶりつく。旨い。なんなんだこれは旨すぎる。これまで何度か述べた通り私はそれほど鰻が好きではないのですが、その私を数分間無言にさせ一心不乱に掻き込ませるほどの魅力に溢れた個体です。ここまで鰻に夢中になったのは、湯島くろぎで食した天然の鰻以来かもしれません。
肝吸いのスープ自体は大した味ではないのですが、肝は本体の筋力を継承してか、レバーとしては信じがたいほどの弾力です。
骨せんべいはまさに珍味といったところ。これをツマミに冷酒でも飲めたら最高だろうなあ。
ちなみに妻は鰻丼。フタの中から蠱惑的に脚を出す鰻ちゃん。
蓋を外せばたっぷりのタレを吸収したゴハンの上に、丸々と太った鰻が威風堂々と鎮座します。写真映えを気にするインスタ女子や、タレをたっぷりと味わいたい男子は鰻丼にしたほうが良いかもしれません。

お会計は鰻重であっても鰻丼であっても2,700円の同一料金。唸るほど安い。東京の気の利いた鰻屋であれば5,000円は軽く超えるクオリティです。
ゴハンはグズグズであったり、タレの調味は雑、肝吸いの味覚は極めて薄く鰻に比べてバランスが悪いなど課題は色々ありますが、兎にも角にも鰻そのものの品質は圧倒的に素晴らしい。関東風のフニャフニャに蒸した鰻料理や名古屋風の切り刻まれたひつまぶしとは全くベクトルの異なる料理です。これまで鰻はそれなりに食べてきたつもりですが、ここまで印象に残ったお店は初めてです。
大満足でお店を出た頃にはお店の周りに待機者の群れが。1時間待つゾーンに入りました。旅行で立ち寄るにはちょっと勇気を要する立地ですが、訪れて後悔する人はまずいないでしょう。「こんな鰻があったんだ」と、素材に対する概念を覆してくれるお店。オススメです。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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