sincere (シンシア)/北参道


超予約困難店、松濤のバカールのシェフが独立して1年。やはり千駄ヶ谷の地においても予約の取れない店になりました。少し変わった内装で、テーブル席だけれどもオープンキッチンの調理の様子がうかがえます。
クロスの無い気軽なお店ではあるものの、センスを感じるテーブルセッティング。
泡で乾杯。黒ブドウの風味の強い、骨格のある酒躯体。
先頭を切るのは解禁されたばかりのせいこ蟹。繊維の一本一本まで旨味の強い蟹の素晴らしさはもちろんのこと、ジュレやソースもそれに負けないアタックがあり、最初の一皿として非常に印象の強いものでした。
パン色々。私は定番のブリオッシュにキノコのパンをチョイス。いずれも凝った味覚でありただ単にバゲットを切るだけの店とは一線を画すクオリティです。全般を通して量の多いお店なので、たっぷりパンを食べる余地が少ないのが残念。
アミューズは5種。まずはトマト。トマトそのものの味はもちろん、キャラメリゼした甘味やローズマリーの香りなど幾重にも重なる風味が楽しい一口。
モンドール(チーズ名)を用いたもの。温かく旨味の強い一口であり万人ウケする味わいです。
ブーダンノワールにウズラの黄味。ブーダンはクリアな味わいであり臭みなどは一切なく、苦手な方であっても楽しめること間違いなし。ウズラの黄味だけを食べる体験は初めてであり、なんとまあ手の込んでいること。
これは何だっけなあ。ウイスキーの風味が響くオトナの味わいという記憶。
これはカマスでしたっけ?味が濃く焼き目の香ばしさも心地よい一皿。以上、作り込みの手間がひしひしと感じられるアミューズであり、この時点できちんとしたお店であると納得。
メニューを見る限りしっかりとした魚介系の料理が続きそうだったので、パワフルな白をチョイス。桃やハチミツの愛くるしい香りから、酵母や樽などのボリューム感のある香りまで。これは良いムルソーだ。
脂がのったクロマグロと根セロリ。マグロの迫力が抜群であり、液体窒素でパウダー状にしたカレー風味のスパイスがフォークボールのように切り込んできます。旨い。こいつはおかわりだ!
ポルチーニ(セップ)特集。元は単一の食材であるのに、形を残したソテーに始まりパウダー、泡、ペーストなどなど様々な食感を楽しめる一皿に。料理の可能性は無限大。
甘鯛はサクサクとしたウロコ焼きに。特に目立ったのは下に敷かれたハマグリの身とスープ。フンニャリと柔らかく、優しく火を入れたハマグリの身が溜まらなく美味。心に残った食材でした。
スズキのパイ包み焼き。見た目こそ遊び心溢れる料理ですが、その味わいは王道も王道。アメリケーヌソースの濃密さも相俟って、極めてクラシックな味覚です。花ズッキーニならびに詰められたホタテのムースも素材の味が活きています。
メインは山形牛のイチボのロースト。これまでの料理に比べると極めてシンプルなものに感じました。栗の使い方は上手ではあるものの、全体の流れの中としては影を潜めた一皿です。
パカレ特集。ビオ香(?)が強く好みが分かれる香りです。味そのものは非常に軽やか。程よいタンニンとミネラル感が心地よく、スイスイと飲み進めることができます。
追加でシグネチャーのストウブごはんを注文。具材は秋刀魚とフォアグラを調子。いずれも旨味が強烈な食材であり、ややもすると喧嘩してしまう風味を、そこはシェフの技術で仲良しこよし。ごはんという心休まる食材もグッド。
デザート一皿目は和栗のスープ。意表を突いて温かいスープであり、濃い目のミルク(?)の風味とホッコリとした栗の旨さが見事に調和しています。
イチヂクはズバりとシンプルに。アワアワの裏側にはアイスクリームが控えており、胃袋を隙間を埋めるにちょうど良いポーションでした。
お茶菓子はかくれんぼ仕立て。石や葉などに擬態されており、甘味を探し出す楽しさがありました。
カカオたっぷりのフィナンシェはお土産として持ち帰りです。
きちんと美味しいコーヒーを飲んでごちそうさまでした。

噂に違わず良いお店でした。今回は割に良いワインを飲んだのでひとり3万円を超えましたが、ワインペアリングなどに留めれば2万円を切るとのこと。これだけの料理を食べてその価格帯で収まるのは見事な費用対効果です。

料理ひとつひとつをとっても、思いつきのアイデアをもとに食材と調味料を適当に組み合わせるチャラい料理とは異なり、きちんとした物語性と哲学、ならびに食材への愛情が感じられる調理であり、五感で楽しんだ以上の満足感がそこにはあります。

若年層がお金を貯め、コンテンポラリーなフレンチに挑戦する登竜門として最適なお店。季節を変えてまたお邪魔したいと思います。


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