ゆたか鮨/大田市場


待ちに待った「東京最高のレストラン」が発売されました。この本は私が唯一信頼しているグルメ本であり、この本を熟読しピーンと来たお店に片っ端から付箋を貼り、1年以内に必ずお邪魔するようにしています。
プロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメの一冊。

本題に入ります。市場と言えば真っ先に思いつくのが築地市場であり、世界最大の魚市場として間違いありません。他方、青果やお花の取扱高が日本一の市場は大田市場なんですね。
南側には羽田国際空港、東側には東京港、北側にはJR貨物基地、真ん中を貫くように首都高速湾岸線が通っており、物流の拠点として申し分ない環境。

青果やお花につき、大田市場での決定価格は水産物における築地市場と同様、日本全国の市場の指標となっています。
築地のようなウェイウェイ感たっぷりの観光客は一切おらず、プロのみが集う市場です。場外市場のような素人向けの店も当然にありません。
お目当ての「ゆたか鮨」。連れが超高級外車で乗り付けたので、市場には何とも不釣合いだなあと苦笑いしていると、我々の後ろにはベントレーが止まっていました。どうなってんだこの市場。
コチ、別名マゴチを昆布〆で。タイのようにハッキリとした歯ごたえにピュアな味わい。仄かに漂う昆布の香りが妖艶です。
本マグロ。これは上質。2貫目でアッパー・カットを喰らった衝撃です。東京でこれだけのマグロを5,000円を切る鮨屋で食べることは奇跡に近い。
ボタンエビは若干渇き気味な外観ですが、口に含むと弾ける味わい。余韻にネットリとした甘味がいつまでも続きます。
お椀はつみれ汁。鮨屋は味噌仕立てのお椀を出すことが殆どだと思いますが、透明な出汁に野趣溢れるつみれの存在感。大根をはじめとしたお野菜もたっぷりです。
コハダは2枚づけ。4枚づけのような幼いコハダも魅力的ですが、これぐらい大きくなったほうがコハダらしさがクッキリと磨かれます。

アジは肉厚でどこまでも新鮮。魚そのものの味が濃く、50回噛んでもアジの味がしました。
ホタテは高さこそ無いものの、面積が広い。ひとくちで含むと口の中が全てホタテで満たされます。

ホタテの淡白な味わいと対称的に、赤貝は磯の香りが全開で刺激的。赤貝って鮨屋でしか食べることの無い食材だから、このネタを食べると、ああ、鮨食ってるなあ、としみじみします。
「お酒飲まないの?あたしのことは気にしないで、ビールでも日本酒でも、好きにして」と心の広いハンドルキーパー。それでは遠慮なくビールを注文。青空の真昼間にドライブで駆け抜けた後に黄金色のシュワリング。人生って最高じゃないか。
イクラはグラフのダイヤモンドと見まごうほど、大粒に輝いています。先日の神田の立ち飲み屋で食べたイクラ(後日掲載予定)は量こそは多いものの、まあこんなもんかという感想でしたが、当店のそれは見た目に比例する味わいでした。
アナゴと太刀魚。アナゴはニセコのゲレンデのようにフワフワであり箸で触れるとそれだけで雪崩が生じます。羽根枕のように軽いアナゴ。

太刀魚は平たく言うと焼き魚なのですが、いわゆる定食屋のそれとは全く別物。芯のある味わいに香ばしい焦げ目。一通りも終盤だというのに食欲に火がつきました。
トドメに本マグロのトロ。赤身由来の鉄分と脳天を駆け抜ける脂の甘さ。それぞれのバランスの良さが劇的で、まるで上質な牛肉を食べているかのような錯覚。
コースの最後に卵焼き。程よく甘く、安心できる味わいです。

「ここのカッパ巻きは絶品なんだから是非食べて」ということで追加で巻物を。私はカッパ巻きを一段低く見ているため、自分から進んで食べることは決して無いのですが、常連客が言うのであればチャレンジしないわけにはいきません。
何なんだこれは。芸術的な包丁さばきで山のようなキュウリの千切りを生み出した後、薄く薄くのばしたシャリに塩とゴマを振り、たっぷりのキュウリを一気に巻き上げる。まるで生春巻きのようであり、思わず#OOTDとハッシュタグを付けたくなります。

ひと口で頬張ると新鮮なキュウリの食感がシャクシャクと大フィーバー。これは旨い。カッパ巻きではなく新しい日本語を作るべきでしょう。
鉄火巻きは赤身の濃い部分を指定。ギッチギチにマグロが詰め込まれ、全盛期の佐々木のようなクローズっぷりでした。

これだけ食べてひとり4,000円程度。くだらない出前やスーパーのパック寿司でも似たような値段を取られることを考えると、当店は素晴らしい費用対効果です。

アクセスが悪く水日祝が休みで夜も早いことのが難点ですが、予約もすんなり取れそうですし、大田市場の見学ついでに飲み会するのもアリですね。10人強で貸切できるみたいなので企画してみようかしらん。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。