年末年始に11日間のクルーズで海外へ vol.13~本物の教育、本当の教養~

11日間の長い船旅もこれでおしまい。
ちょっと長かったかなあ。定量的な長さもさることながら、寄港せず1日中船内に留まる日が7日もあったので退屈した場面も多々ありました。神戸発着の9日間ぐらいがちょうど良さそうです。

また、我々は今後日本船に乗ることは無いだろうな、とも思いました。これは決してぱしふぃっくびいなす号が悪いわけではなく、私が求める価値を当船が提供できるように設計されていないことが原因です。出発前に予見できたことでもあります。
「英語が話せない純ジャパのお年寄りが何一つ不自由しないクルーズ」が当船の基本コンセプトのような気がします。熱海や鬼怒川などの巨大温泉ホテルがそのまま泳いでいるイメージ。日本での生活をそのままパッケージ化して海に浮かべた印象。

妻は海外生活が長く英語はネイティブ(日本語は怪しい)であり、私もTOEICは900点を超え日常会話であれば騙し騙し何とかなるレベルなので、「日本語が通じる」というのは加点ポイントでも何でもないんですよね。日本語で全てを賄えるよう世界一人件費の高い日本人従業員を主軸に据えているということは、コスト高に直結するという意味でむしろ減点かもしれません。

世界観についても、当船は日本特有の奥ゆかしさに溢れており、外国船のようにキャッキャウフフなテンション高は見られないので、非日常感は得られません。明鏡止水。日本での生活の延長がここにある。フォーマルナイトがそもそもなく、ブラックタイでバシっとキメる状況もありません。

もちろんこれらの特徴こそがぱしふぃっくびいなす号のレゾンデートルであるため、変える必要は全くないでしょう。未来永劫この船の需要は確実に在り続ける。

細かいことを言うと、船長が八面六臂の大活躍すぎて、乗客の私としては安全面が気がかりでしょうがなかった。

というのも、アメリカ船であれば船長は運航に全責任を負い、クルーズディレクターはエンタテインメントに全責任を負い、メートルドテルはサービスに全責任を負う、といった具合に完全に分業化されており、間違っても船長がイベントでコンニチワすることはありません。

しかし当船の場合、船長が頻繁に操舵室からひっぱり出され、各種イベントの挨拶やお見送りに絶えず駆り出されており、それこそオハヨウからオヤスミまで船長尽くしの航海。素人の私から見ても、船長が圧倒的激務であり、それを強いる構造は安全上いかがなものかと思った次第です。船長は自身でマグナ・カルタを打ち立て、名ばかり管理職たちを奮起させるべきでしょう。
船体について。当船は26,594トンと非常に小さいです。フィン・スタビライザーという横揺れ防止機構が備わっているとは聞いていたものの、びっくりするほど揺れました。感覚的に「おがさわら丸(約11,000トン)」と大差ありません。風呂に入ると船体の動揺でお湯がザップンザップンと荒れ狂い、グラスはテーブルから滑り落ちそうになるレベルです。乗り物酔いをする方は覚悟したほうが良いでしょう。

他方、コンパクトなサイズ感は気に入っており、直感的にどこに何があるかすぐ理解できました。これまで乗ってきた10万トンオーバーの船々は、船内の位置関係を完全に理解しないまま航海最終日を迎えるのがザラだったので。

また、ぱしふぃっくびいなす号の乗客は僅か500人。他人とお友達になるのが好きな方にとっては最高の環境でしょう。「友達100人できるかな」も夢ではありません。私はできるだけ誰とも関わらずに過ごしたいという無縁社会を切望する人間なので、「乗客5,000人オーバーで全員が常に他人」という大型船のほうが好みです。

お金について。船内でお金を使うシーンがほとんどありません。アメリカ船のアメリカ人たちは驚くほどムダに酒を飲み、過剰に船内ショップで土産物を買い、謎のオークションで大金を落としていくのですが、日本人は食事中に少しお酒を嗜む程度です。

日本船はチップも不要。アメリカ船は下船時に目を剥くほどのチップがチャージされ、予約時に支払う船代金に加え、何やかんや追加で支払う必要があるのです。

唐突に私事。教育について。当船の従業員教育についてではなく、私の高校生活の教育についてです。

私の高校の音楽の先生はカンツォーネのプロの歌い手であり、授業スタイルがちょっと変わっていました。

夏休みの宿題は「何でもいいからみんなの前で1曲披露できるように練習」のみであり、2学期は全員の発表をこなすだけで終わってしまうという牧歌的な授業スタイルでした。ラフマニノフのややこしい曲を弾く者もいれば、リコーダーでハトポッポを吹くものもいたりと、それはそれは楽しい授業でした。

彼が特にこだわっていたのが「原語で歌う」ということ。英語、仏語、独語、伊語など様々な言語で各国の有名な歌を学んだのですが、その中に「喜びの歌」も含まれており、今回のカウントダウンイベントにおいて私はドイツ語でソラで歌えたのです。

高校時代の息抜きで遊び半分の授業が十数年後の洋上で活きるとは。これが「教育」ひいては「教養」の本質だと、ひとり納得しました。

次は何を学ぼう。空はどこまでも青く、海は果てしなく広い。


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クルーズ旅行が好きです。ホテルごと移動して、朝起きたら違う土地に着いているという手軽さがいいですよね。煩雑な荷造り&荷解きとは無縁。交通費と食費も込みなのでリーズナブルです。
子育て中のイラストレーターが漫画でクルーズの素晴らしさを伝えてくれるエッセイです。クルーズ旅行って、高級なイメージがありますが、子連れなどの場合は総額では割安になることが多い。そのような事実や基礎知識を非常に解かり易く著している良本です。クルーズをまだ一度も経験したことが無い人が読むに打ってつけ。


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