アビス/外苑前

Abysse。「深海」という意味の、魚介専門フレンチです。

マルセイユの三ツ星Le Petit Niceやカンテサンスを経てフロリレージュ跡地にオープン。場所は外苑前の普段行かないゾーン。フロリレージュに行ったことがある人は迷わないだろうけど、そうでない場合は圧倒的に迷子になるロケーションです。なんであんな公園の横の階段登るんだ。
フロリレージュの居抜きで構成はほとんど変わっていませんが、紺碧というか、やや青系が目立つ色合いへと変化しています。写真は東京カレンダーのweb予約サイトより。
東京カレンダーの予約サイトを初めて使ったのですが、同行者の間柄の選択に「気になる人」があったので思わず選択してしまいました。何かサービスの振る舞いが変わるのかと期待したのですが、特にエロい演出があったわけではありません。これは店のせいではなく、下心で成り立っている東京カレンダーのせいである。
 テーブルコーディネイトにまで1本芯が通っていて、哲学を感じます。
まずはシャンパーニュ。ピノ主体で泡が繊細、クリーミー。ボリューム感があってコクが深い。どこかで飲んだことあるなあ、、、と帰宅後に記憶をひっくり返してみると、エレネスクでしたね。我ながら良く覚えているもんだ。
生のエビをライムとセロリで。セロリの色があまりにも鮮やかで衝撃的。どうやったらこんな色を出せるのでしょうか。エビの甘さと品の良いセロリの風味が仲むつまじい。前日の同時刻にトゥラジョアで白えびを30匹頂いたばかりなので思わず比較してしまいましたが、当店のセンスのほうが私にはしっくりきます。
一方で、パンは極めて標準的。バリエーションが無くこれ1種類だけなのは寂しい。3つも食べておいて何ですが。
瞬間冷凍したホワイトアスパラガスのパウダーにウニのソース、柚子とハチミツのカスタード。「アクセントに桜海老のチップスを」と説明がありましたが、桜海老の旨味がブッチギリに強く、主題が完全に不明瞭です。味は申し分ありませんので、料理名を変えましょう。
泡をあっという間に空けてしまったので、白へと進む。魚介専門に絞るとボトル選びが楽でいいですね。クスダのリースリング2015がお値打ちだったので即決。

ぺトロール香や品の無いミネラルなどは排除されており、とても綺麗で透明感のあるリースリングでした。ピノ・ノワールシラーはどちらを飲んでもクスダ味に私は感じてしまうのですが、ことリースリングに限っては良い意味で作者不詳。大満足。

ちなみにコチラ、たったの3,760本しか生産されなかったんですって。そのうちの1本!ラッキー!
タコとタケノコのベニエ(天ぷらみたいな感じ)にホタルイカとタイのソース。チコリっぽい野菜もトッピングされています。タコが初々しく柔らかい。それでいて旨味たっぷり。素晴らしい調理です。タケノコのジャクっとした食感もホタルイカの苦味も見事に調和しており美味しかった。

ワインはもう少しボリューム感のある白のほうが良かったかもしれませんが、まあ、特に料理を邪魔しないものだったのでそれはそれでOK。
スペシャリテのスープドポワソン。魚のスープです。7種の魚にオマールのビスクを加えたもので、聞いただけで美味しいでしょう?スパイスが多用されており、隠し味にオレンジの酸味。ヌキテパのそれよりも現代的な印象で、どちらが上というよりも、別物と捉えたほうが良いかもしれません。

想像の通り味が濃い。味付けが濃いわけじゃないですよ味が濃いんですよ。いずれにせよ、酒飲みと下戸では印象が違うかもしれません。個人的にはもっと量を飲みたかったです。
メインは黒鯛。爆発的なポーションで魚肉だけで腹イッパイになれます。 イカスミのソースと新タマネギのソースの対比も良好。ただしあまりにポーションが大きいため、Grønbech & Churchillの舌平目とまでは言いませんが、途中から単調に感じてしまいました。

ところで、ネット上の口コミではやたらと「火入れがすごい」と書かれていますが、本当にそう思って書いているのかなあ。というか、そんなに火入れが決定打となる料理かなあ。どうも「カンテサンス=火入れ」という妄信した風潮があるような気がしてなりません。
デセールはサクランボに玉露のアイス、パイ生地っぽいやつ(忘れた)。抹茶ではなく玉露と言い切るのが面白く、確かに峻烈ながらも品の良い苦味が心地よかったです。その他は特に印象なし。
ミニャルディーズは真珠に見立てたホワイトチョコ。中にドライパインが入っています。下に敷かれた鰹節的ホワイトチョコまできちんと美味しく抜け目が無い。
礼儀に則ったコーヒーで〆。ごちそうさまでした。

個人的にはすごく好き。フレンチな気分だけどそんなにボリュームはいらないや、という時や、量を食べれない前菜至上主義の女子を誘う場合に良いでしょう。

「魚だけじゃフレンチは成り立たない」だの「魚介なら鮨・和食に勝てるわけがない」などと心無いことを言う人も多いですが、私はシェフのチャレンジ精神を応援したいですね。チャンスは貯蓄できないんだから、どんどん挑戦して失敗すればいいじゃんいいじゃんEE JUMP。1985年生まれのシェフは言い返してやればいいんです。「何もできない、ちゃんとできない、それがどうした?僕らは若いんだ。何もできない、すぐにできない、だから僕らに可能性があるんだ」と。


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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。



アビス
昼総合点★★★☆☆ 3.5
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