天冨良よこ田/麻布十番

くもりだけれど夕焼けがキレイという不思議な空の日、天ぷらへ。入店した瞬間に鼻につくカレーの香り。カレー塩で食べさせるとは聞いていたけれど、ここまで強烈なスパイスを感じさせることにに驚きました。天ぷらという料理はもっと繊細なものだと思うのだけれど。
桃の滴と黒龍を1合づつ。ここのところ濃い赤ワイン続きだったので、たまに日本酒飲むとほっとする。
コースはおまかせ一本のみ。最初に供されるはドレッシングたっぷりのサラダ。まずくは無いけれど、ファミレスのそれみたいで意図が良くわからない。
エビの脚から。サクサクとして美味しい。のですが、大将が「美味しいでしょ?すごいでしょ?」としつこく感想を求めてきて面倒くさい。年取った男ベッキーみたいで押し付けがましい。「今日は本っ当の天ぷら、食べさせますからねぇ!お楽しみに!」あ、ムリですこういうお店。開始5分で心が閉じてしまいました。
エビ。半生で甘味が感じられ美味。なんですが、「一口目はレモン塩、次は塩だけで食べてみてくださいね!」と、大将が私の一挙手一投足全てに干渉してくるから嫌だ。放っておいて欲しい。
メゴチ。「こちらはカレー塩で食べるのが一番なので是非!」。確かに悪くないのですが、どうもカレー粉は幼稚で乱暴な味つけに感じてしまうし、繊細さにも欠けると思います。
ヤングコーン。甘味と歯ごたえが絶妙。「あ!あ!天つゆはつけないでくださいね!せっかくサクっと揚げてるのに、ダシなんかつけちゃうと、べちゃべちゃになっちゃう!」それなら最初から手元に天つゆ置かんといて下さい。
「奥さんは女性だから、半分に切っておきますね!○○さん(私の苗字)は男だから、そのままでいいでしょ?え?カットして欲しい?ひと手間加えると、別料金とりますよ!」これはひょっとしてギャグで言っているのか?大体、初対面のゲストを名指しで呼びつけるのは一般的じゃないし、連れの女性を自動的に「奥さん」と決め付けるのはいかがなものかと思います。
「これはねえ、奥さんがとっても好きなヤツですよ!わかるでしょ?うふぇっうふぇっうふぇっ」なるほど、キスね。知ってるがお前の態度が気に入らない。「奥さん」よ、そろそろずらかるぞ。
アスパラ。適切な火の通りと素材の良さ。素晴らしい。そう、黙っていてくれりゃそう悪くない店なのにな。
小柱を大葉と海苔で巻いたもの。うっとりするほど美味しかった。貝がギッチギチに凝縮されていて、一口食べると大葉と海苔の風味が包み込む。本日一番のお皿です。
タマネギ。とても甘い。衣は非常に薄く、素揚げに近く感じました。「衣、薄いでしょ?いい歯ごたえでしょ?これがね、本物の天ぷら、本物の天ぷら職人の腕なんですよ」。彼の自信はどこから来るのでしょうか。別に悪いとは言わないけれど、楽亭とかのほうが段違いにレベルは高いとこちらは感じているこのギャップ。
ホタテ。こちらも火の通りを留めてあり、舌先にクリーミィに解けていきます。甘い。「どうです○○さん?美味しいでしょ?良かったですねえ!」1,000円やるから10分黙っていて欲しい。
レンコン。標準的。
「これはねえ!秘密です!あえて言いません!食べてからのお楽しみ!」うん、一目見ただけでトウモロコシとわかったよ。
「このアナゴは本当に素晴らしいですよ!あ、これが本物の天ぷらだって、すぐにわかります!」あなたがそう思うんならそうなんでしょう、あなたの中ではね。こちらとしては大きいだけで品が無いように感じています。
ナスは素揚げに近く、旨味も小さい食材なので印象に残らず。ただただ熱かった。
最後にもう一度エビ。え?もう終わり?と連れと顔を見合わす。そう、写真で見返すとそれなりに食べているのですが、ライブ感覚では打率ほど打ってないというか、あまり食べた気がしませんでした。「ハイ!奥さんには特別に、脚をもう一個プレゼント!旦那さんには内緒ですよ!うふぇっうふぇっうふぇっ」あ、オレってこんなに心を失った機械みたいな愛想笑いできるんだ。
「一通り出ましたけど、まだ召し上がります?」を丁重にお断りし、お食事へ。「天茶と天丼から選べるんですけど、○○さんは初めてなので、ひとつづつお出しして、シェアされては?」との提案を素直に受け入れる。キュウリが美味しかった。
赤だし。液体と同量かそれ以上にシジミが入っていて驚きました。太っ腹である。
私の前に天丼が置かれたので、真正直に食べ始めると、「ええ~?普通、奥さんに『先に少し食べていいよ』とか言いませんかぁ?うふぇっうふぇっうふぇっ」。決めた。明日近所の黒魔術師に呪ってもらおう。これからが本当の地獄だからな。
天茶。さんざんっぱら天ぷらは揚げが命だの衣のサクサク感が全てだの講釈垂れてたくせに、なぜお茶漬けにしてしまうのか。ただもうあれこれ言っても詮無きことなので、「わあ美味しい」と極度の棒読みで嘘の感想を述べておきました。
デザートはキウイのアイス。濃厚でとっても美味。

というわけで、もはやワロタレベルではないお店でした。ただ、安いんですよ。味も上々。大将が寡黙に揚げ続け、客も静かに食べる雰囲気がお店にあれば、中々イケている天ぷら屋になるのではないかとも思います。

私はどちらかというと無口なライオンというか、分析的に食べつつも店内では文句を言わず黙ってやり過ごすハードボイルドな客なので(たまに演説しているみたいに大声なオッサンは何なんだ?)、全くもって当店のような雰囲気のお店は合わないんでしょうね。軽口を叩きながらお店とうまくやれる人には結構ハマると思います。

ミシュランを取るような天ぷら屋としては安い。カジュアル。そういう意味で、天ぷら入門編にはオススメできるお店です。

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天ぷらって本当に難しい調理ですよね。液体に具材を放り込んで水分を抜いていくという矛盾。料理の中で、最も技量が要求される料理だと思います。
てんぷら近藤の主人の技術を惜しみなく大公開。天ぷらは職人芸ではなくサイエンスだと唸ってしまうほど、理論的に記述された名著です。スペシャリテのさつまいもの天ぷらの揚げ方までしっかりと記述されています。季節ごとのタネも整理されており、家庭でも役立つでしょう。

天冨良よこ田
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