啓蟄 (けいちつ)/渋谷

2023年5月にオープンし、ゴエミヨやミシュランに掲載されるようにまで登り詰めた「啓蟄 (けいちつ)」。店名は二十四節気から。場所は神泉駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅街に位置し、レストランとは気づきにくい、というか普通にひとの家的な外観です。以前は「エレゾハウス」があった場所ですね。
店内はグレーを基調としたスタイリッシュな空間で「Ode(オード)」みがあります。カウンター8席のみ。松本祐季シェフは広尾「アラジン」や六本木「コジト」などで経験を積み、渡仏時は北フランスの「ラ・グルヌイエール」でスーシェフを務めたとのこと。
お料理のコースにペアリングがついて2万円チョイだったのですが、その予算感の割にしっかりとしたワインを楽しむことができました。酒量も中々のものなので、皆さん安心してペアリングをお願いしましょう。
アミューズはジャガイモの千切りをボール状に揚げたもの。炭化したレモンも含まれているそうですが、初球にしてはちょっと苦味が強いかもしれません。
続くタルトには新玉ねぎのムース(?)がたっぷり。アンチョビの塩気もきいて、見た目からは考えられないほど酒が進むひと品です。新玉ねぎだけで超旨いので、イチゴは余計に感じました。
菜花と毛ガニはケーキっぽく仕上げています。当店の料理は立体的な盛りつけが多く、近年稀に見る3D感覚。味そのものは美味しいのですが、ちょっとスポンジがパッサパサで口の中の水分が持っていかれました。
薄切りのカブとホタテを組み合わせます。底にはフレッシュチーズが敷かれており、仄かな酸味が全体を上手く取りまとめます。
赤いスコッチエッグ的なお魚料理はカマス。軽くベニエし淡い火の通りで頂きます。魚は旨いのですが、中央のトマトは視覚的にも味覚的にも冗長に感じました。乳首みたい。下に敷かれているのはキャベツであり、こちらは春爛漫といった甘さで心和みます。
パンはブリオッシュ。外側はサクッと軽い歯ごたえがあって、中はしっとりふわふわ。口の中で溶けるような柔らかさが堪りません。バターがたっぷり使われているのか、濃厚でリッチな味わいが心に残りました。
メインは鹿のロース肉。これまでの料理はいずれもひとつは要らない工夫がされていましたが、肉料理は直球勝負でストレートに美味しいです。これこれ、こういうのでいいんだよ。こういうのがいいんだよ。
デザートはセロリを甘く煮たものとヨーグルトを合わせています。いずれも面白い味覚なのですが、周りを覆うバーワンみたいなブヨブヨは余計かもしれません。
焼き立てのお茶菓子にブレンドティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。お会計はお料理のコースにペアリングがついて2万円チョイ。お店の格を考えれば良心的な価格設定です。

料理そのものは悪くないのですが、繰り返し記した通り何かひとつ余計な事をしてくるので、それを前衛的と捉えられるかどうかは人それぞれかもしれません。私は食事については保守的な人間であるため、美人が厚化粧しているような勿体なさを感じました。それが研ぎ澄まされ、そぎ落とされたときに、改めてお邪魔したいと思います。

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魚屋直営地魚食堂 魚まる/樋川(那覇)

私の推しの海鮮居酒屋・定食屋の「魚まる」が3号店をオープン。魚屋直営を活かした新鮮な沖縄近海の魚料理が自慢であり、観光客にも地元民にも人気があります。場所は与儀公園すぐ近くで、以前は高級沖縄そば屋「尊尊我無(とうとがなし)」があったところです。
店内は「尊尊我無(とうとがなし)」の居抜きに近い形であり、沖縄の古民家らしい雰囲気が心地良い。靴を脱いで畳敷きに上がって、まるで親戚の家に遊びに来たような気分です。
メニューの論調は1号店2号店に似てはいるものの、少し高めの価格設定に感じました。2号店名物の「メガにぎり20カン盛」が無いのが少し寂しい。
私は「うおまる御膳」を注文。ゴハンもの、汁物、揚げ物のそれぞれ1品づつを自由にチョイスするプリフィクスメニューであり、これだけの料理を注文して2,398円です。
ゴハンものは「まーさん丼」を注文。「まーさん」は沖縄方言で「おいしい」という意味を持ち、その名の通り新鮮で美味しい魚介類をたっぷり使ったバラちらしです。いわゆる刺身だけでなく、アナゴや玉子、キュウリやカニカマ、イクラも組み込まれているので、もう既に1日30品目を達成する勢いです。
汁物は「魚汁」をチョイス。魚のアラに加え、たっぷりの豆腐やネギも組み込まれます。魚のエキスがたっぷりと沁みだしており、白味噌の優しい甘さと相まって絶品としか言いようがありません。町の定食屋でこのクオリティのスープが出てくるのは世界的に見ても珍しいでしょう。
揚げ物は「魚フライ」。白身魚のフライがドンドンドンドンと4つも並べられ満腹オブ満腹。この御膳、普通の食欲の方であれば食べきれないかもしれません。
茶碗蒸しと小鉢も付きます。茶碗蒸しからも魚介の風味が感じられ、流石は魚屋直営の飲食店。きんぴらごぼう(?)もシットリと味が沁みており美味しかった。
以上を食べて2,398円。2号店の「メガにぎり20カン盛」も凄まじい費用対効果ですが、当店の御膳も勝るとも劣らず。おなかを空かせて訪れましょう。

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