那覇市前島のライオンズマンション1階に入居する「髙ノは(たかのは)」。沖縄では珍しい本格派の日本料理店です。外壁の花ブロック(沖縄の亜熱帯気候に適応するために作られ、強い日差しを和らげつつ風を通す機能を持った建築素材)が目印です。ちなみに沖縄のライオンズマンションには入口にライオンでなくシーサーが備え付けられています。これ豆な。
店内はカウンターに6席と、奥にテーブル席が1卓のみ。コンクリート打ちっぱなしと漆喰で固められた壁面がクールです。シェフは京都出身のようで、日本料理店だけでなく鮨店でも腕を磨いたそうです。
アルコールにつき、この手のレストランとしては大変良心的な価格設定です。東京のグーグルマップ文学店は同じ赤星が1,100円もするんだぜ。日本酒のラインナップも豊富で状態が良く、ゲストは皆、気前よくポンポン飲むので、結果として回転も良く好循環が生まれています。
まずは季節のお野菜。春キャベツと干し柿を酢味噌で和えたもの。春キャベツのシャキッとした甘みと干し柿の濃厚な甘さが、酢味噌の酸味と良く合います。アクセントにカラスミも削っており、奥深い味わいが堪りません。
タイラガイにも春野菜をたっぷり合わせます。貝特有のジュンとした旨味が春野菜の仄かな苦みと絶妙にマッチ。噛みしめるごとに春の訪れを感じさせる典雅な味覚です。
お椀はグジ。甘鯛の繊細な甘みとふっくらした身が心地よく、今さっき引いたばかりの繊細なお出汁と見事な調和を奏でます。
お造りはタイ。厚めにスライスされており、プリプリとした弾力ある身は、噛むほどに甘みと旨みが溢れます。ウユニの塩とシークワサーを用いた調味も面白い。
本マグロはドッシリと歯ごたえを感じさせるカットであり、肉を食べているかのような迫力があります。ソースは卵黄醤油であり、圧のあるマグロの味覚に負けない存在感。このあとシャリ玉もオマケで付いて来るのが嬉しい。
ここからにぎりに入ります。まずはマグロ。同じ食材ながら先の卵黄醤油とは全く異なるアプローチであり、マグロ特有のエレガントな酸味に舌鼓を打ちます。
シメサバ。締め方は穏やかで、サバの脂の旨味を上品に昇華させていました。続いて煮蛤が出るのですが撮影を失念。蛤をじっくり煮込んだ柔らかな身は、濃厚な旨みとほのかな甘みが凝縮され、口の中でほろりと崩れました。
お口直しにきんぴらが出ました。何でも大阪の希少なウドを用いているそうで、独特の香りとほろ苦さが、甘辛い味付けと溶け合い、大人の味わいです。
アナゴ。ふわっとした食感と深い味わいが魅力的で、柔らかで脂の乗った身が甘めのタレと絡み合い、口の中でとろけるような旨みを放ちます。
ウニ。ウニのとろけるようなクリーミーさと海苔の磯の香りが口いっぱいに広がり、濃厚な海の甘みが炸裂します。
また、本日の魚介類のサマリとして、それぞれの端材から抽出された魚汁も提供されます。色んな味がする。それぞれ美味。まさにエグゼクティブサマリである。
煮魚はマナガツオ。甘辛い煮汁がしみ込んで、身はふっくらと柔らか。自然に日本酒に手が伸びる、ほっこり温かで奥深い味わいです。
お食事は炊き立ての白ゴハンに、炭火で甲羅焼きした間人蟹をトッピング。甲羅の焼ける芳醇な香りが食欲を誘い、濃厚な蟹味噌はとろりと溶け出し、口に運べば至福の味が広がります。間人蟹、続く。今度はフグの白子を組み込み、しっかりと混ぜ込みます。和風のスーパーリッチなグラタンというべきかリゾットと言うべきか、この美味しさを5段階で表現するとすれば12だ。
もう少しゴハンがあるとのことで、卵かけゴハンで締めくくり。卵黄だけを用いた贅沢なものなのですが、そこでシェフが共犯者のような笑みを浮かべ、カラスミを削りまくってくれました。削りまくりまクリスティ。これぞ大人の卵かけゴハンです。
お茶と小菓子でフィニッシュ。シェフの生家の近くで栽培される玉露とホワイトチョコを練り込んだ煎餅(?)だそうで、最後の最後まで抜かりはありません。ごちそうさまでした。
以上を食べ、結構食べてお会計はひとりあたり2.3万円。六本木や銀座であれば間違いなく倍は請求されるであろう質および量であり、これで話のつまらない表面的な日本料理店よりも安くつくとは悪い冗談としか思えません。
「いしみね」とはまた違った方向性の日本料理店ですが、いずれも心から素晴らしい店だと断言できます。私が保証します。大食漢のお友達と共に、最高値コースを予約して訪れましょう。

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日本料理は支払金額が高くなりがち。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの日本料理ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い日本料理なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
- 乃木坂しん ←肝臓を整えてからどうぞ。
- かどわき/麻布十番 ←トリュフ!トリュフ!トリュフ!
- しのはら/銀座 ←予約困難となって当然だ。
- おぎ乃/赤坂 ←赤坂にミラクルな店が爆誕しました。
- 割烹 新多久(しんたく)/村上(新潟) ←魚は新鮮さが全てではない。
- 一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾(石川) ←能登半島にゴールデンルーキー現る。
- 御料理 一燈(いっとう)/福井 ←福井に来る機会があれば必ず予約を入れましょう。
- 比良山荘(ひらさんそう)/湖西(滋賀) ←鮎をたらふく食べ、熊肉に舌鼓を打ち、マツタケをザルのように食べてこの支払金額はお値打ち。
- 木山(きやま)/ 丸太町(京都) ←京都で一番好きなお店。
- カモシヤ クスモト/福島(大阪) ←独学でもトップに立ててしまうのか。
- 島之内 一陽/難波 ←カジュアル日本料理の最高峰。
- みつき/鳥取駅 ←この質のカニをこの価格で提供できるのは地の利。
- 馳走 卒啄一十(ちそう そったくいと)/広島市 ←中国地方、いや日本全体を含めてもトップクラスに好きな日本料理店。
- 御料理 まつ山/黒崎(北九州) ←北九州の旅程に是非とも組み込みたいお店。
- 日本料理 幸庵/藤沢 ←こちらも費用対効果が素晴らしい。ミシュラン三ツ星って実はお買い得?