現代フランス料理界の巨星、
ピエール・ガニェールの右腕として長年活躍してきた赤坂洋介シェフが、2025年4月に満を持して自身の城「ラ メゾン コンフォターブル(La Maison Confortable)」を構えました。場所は麻布十番の雑居ビル4階で、店名はフランス語で「心地よい家」を意味します。ちなみにピエール・ガニェールは「ポトフ 美食家と料理人」という映画で、チョイ役ですが俳優デビューを果たしていますこれ豆な。
白を基調としたミニマルな内装で空白のキャンバスを想起させます(写真は公式ウェブサイトより)。窓が無いため人によっては圧迫感を覚えるかも。全体で15席ぐらいで、入口近くで小さな個室もあるようでした。
赤坂洋介シェフはフランスで経験を積み、2003年からピエール・ガニェールのもとで研鑚を重ね、2011年から2025年1月まで東京店のエグゼクティブシェフを務めました。ソムリエもピエール・ガニェール時代の同僚のようで、チームワークはバッチリです。
ワインの値付けはインターコンチの感覚を引き継いでおり、市中のフランス料理店としてはやや高め。コース料理に合わせたペアリングだと2万円程度だったのでお願いすると、これが大当たり。シェフの料理に寄り添うクラシックなチョイスであり、変なカクテルとか日本酒とかが出てこないのがとても良い。
アミューズからバリバリに凝っており最初から絶頂に達します。カリフラワー、サツマイモなど素材は素朴なものが多いのですが、正しく理を料っており、実に豊かな酒のツマミです。この少ない席数でこんな凝った仕事しちゃって身体は大丈夫かと余計な心配をしてしまうくらいです。
ひと口のホタテもゲストが入店しタイミングを見計らって調理に取り掛かっており、サクサクのホカホカ。アミューズが旨い店は何をしても旨いのだ。
ボタンエビ。海老の美味しさは当然として、彩り豊かな紅芯大根の千切りにはミミガーが組み込まれており。なるほどビストロで豚の耳を食べる機会はそれなりにありますが、このようにガストロノミックに楽しむのは初めての経験かもしれません。
牡蠣は牛肉で巻いてきます。主張の強い食材同士で大丈夫かしらと心配するのですが、これが予期せぬ調和を発揮しており抜群に美味。付け合わせにホウレンソウ、ソースはビーツといずれもクセの強いものばかりですが、不思議と一体感が感じられます。これはソムリエのワイン選びが大変だ。
全体を通してソースがしっかりとした料理が続くからか、パンはソースに寄り添う素朴な味わい。とは言え穀物の豊かな風味を感じられる地頭の良い味覚です。
フォアグラ。数年前に比べて段違いに値上がりした食材のひとつですが、これがまた実に丁寧に調理されており、プリンのような舌触りと後味の良さを楽しむことができます。季節のキノコの風味も良くエスカルゴとの調和も素晴らしい。フォアグラは惰性で出す店が多いので、当店のようにきちんと美味しいフォアグラ料理を出すのはかなり珍しいと言えるでしょう。
お魚料理は甘鯛。緻密な火入れにより、ウロコのクリスピーな食感と鯛の身のふっくらとした瑞々しさを実現。甘鯛の上品な味わいを最大限に引き出しています。付け合わせ(?)に梅を練り込んだカボチャのペーストが用意されるのですが、これがまた不思議と旨く、今度家でやってみよう。
メインは鹿肉。鉄分豊かな赤身の力強い旨味と上品な野性味に対し、ソースは甘さを抑えたチョコレートが基調としています。深いコクとほのかな苦味、複雑な香り。平成の攻めを感じさせる味覚です。面白いのはイカをトッピングしている点で、独創性を通り越して前代未聞の組み合わせではなかろうか。
〆にリゾット。1年間熟成させたカルナローリ米を用いており、ナッツのような豊かな風味と粘りを持ち、芯を感じる絶妙な食感を楽しみます。そこに辛うじて形を保っている牛タンが乗り、濃厚な肉の旨味と深いコクを加えます。仕上げに新鮮なウニをトッピングするのも挑戦的で、リゾットの熱でわずかに温められ、磯の香りとクリーミーな甘みを添えて全体をまとめ上げます。
お口直しにクレモンティーヌのシャーベット。柑橘の甘味と鮮烈な酸味が心地よく、ハイビスカスを用いたジュレの華やかな香りが洒落てます。
デザートに栗のペースト(?)にメレンゲ、柿。アクセントにマッシュルームも潜んでおり、その土を思わせる豊かな香りとほのかな旨味が、栗の風味と共鳴する。秋の味覚を巧みに組み合わせた驚きのあるひと皿です。
お茶菓子。最後の最後まで手抜き無しに凝っており、気の遠くなる仕事量でしょう。席数に対して妙に料理人が多いという印象を持ちましたが、なるほどこれだけ凝っていれば必要な配員なのかもしれません。
ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上の料理が3万円、ワインのペアリングが2万円、水やらなんやらでお会計はひとりあたり5万円強といったところ。
ピエール・ガニェール時代よりも解き放たれている感があり、独創性みを強くした印象を受けました。奇抜な組み合わせが多いものの、いずれもきちんと美味しいのが素晴らしい。これは星の獲得間違いなし。かけてもいい。
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