焼肉ホルモン金樹(きんじゅ)/中目黒

手頃で旨い焼肉が深夜まで楽しめる店として飲食業関係者の間で好評を博し、中目黒に3号店を展開するにまで至った「焼肉ホルモン金樹(きんじゅ)」。オーナーのムッシュ金は在日三世の元プロボクサーで、ご実家は秋田県の焼肉屋。自身は都内の有名店で経験を積んだ後、大塚に「焼肉冷麺だいじゅ」を、続いて赤坂に「焼肉ホルモン金樹」を開業し、急速に支持を集めました。
メディアで見かける内装写真はシックに仕上がっていますが、雰囲気は実にカジュアル。4-6人がけのテーブル席が中心で、家族連れ多めでワイワイ楽しくやってます。いくばくかを支払えば個室も利用できるようです。
酒が安く、ビールの中ジョッキや中瓶は600円強。私のお気に入りは自家製のマッコリで、特有の甘ったるさは無くキリリと辛口。乳酸由来の酸味と発泡が味蕾に心地よい。
ミノポン。新鮮なホルモンへの自信がうかがえる、さっぱりとした前菜です。軽く湯通しされたミノは臭みが一切なく、コリコリ、シコシコとした力強い歯ごたえが特長的で、噛むほどに上品な旨味がじんわりと滲み出てきます。酸味の効いたポン酢と共に、内臓料理ながら爽やかな味覚です。
きんじゅサラダ。店名を冠したサラダであり、葉物野菜がたっぷり。ごま油の香ばしい風味をベースとしており、シャキシャキとした野菜の食感と、食欲を掻き立てるドレッシングの味わいが一体となっています。肉の旨味を邪魔することなく、むしろ引き立てる名脇役です。
キムチは単なる箸休めではなく、一品料理としての完成度を誇ります。辛味、酸味、甘味、旨味が見事に調和した奥深い味わいで、熟成による程よい酸味が食欲を増進させ、唐辛子の刺激的な辛さが後を引きます。
上レバー。艶やかな質感と美しい色合いで、角がピンと立った逸品。網の上でサッと炙り、鉄っぽい風味を愉しみます。
煮込み。じっくりと時間をかけて煮込まれた牛スジで、塩味ベースのあっさりとした味付け。口に運べば、脂の甘みとコラーゲンのとろけるような食感が広がり、思わず頬が緩みます。量もたっぷりだ。
看板メニューの「特選生タン塩」は3,278円と頭一つ抜けた価格設定なので、当店初心者の私は1,650円の「生タン塩」から入ります。安いほうとは言え冷凍ものでは決して味わえない、チルドならではの格別な美味しさ。適度な厚みにスライスされており、焼き上がりは表面がサクッと香ばしく、中はプリッとした心地よい弾力とを楽しむことができます。
「和牛カルビ」は1,650円とは思えないほどの質および量であり、網の上で軽く炙ると甘く芳醇な香りが立ち上り、とろけるような舌触りと上品で全くしつこさのない脂の甘みが心地よい。
やはり看板メニューの「スペシャルハラミ」は4,290円と高価なので、まずはプレーンな「ハラミ」から。見た目は上質な赤身肉そのもので、肉質は非常に柔らかく、筋っぽさを全く感じさせません。適度に含まれた脂が焼くことで溶け出し、肉全体をコーティングするため、パサつくことなくジューシーな仕上がりになります。これで2,090円とは大変お値打ち。
金樹の真骨頂ともいえる内臓類。左が「新鮮ホルモン」で右が「上ミノ」。プリプリ、シコシコ、コリコリといった多彩な歯ごたえは、まさしく鮮度の証。噛むほどに増す濃厚な旨味とコクが、当店が同業者から高い評価を得ている理由を雄弁に物語っています。
〆に「盛岡冷麺」。スープは牛骨から丁寧に取られた出汁がベースになっており、あっさりとしていながらも深いコクと旨味が感じられます。半透明の麺は驚くほど強いコシと弾力を確保しており、ツルツル、シコシコとした独特の食感が楽しみます。焼肉で火照った口の中をクールダウンさせ、食事をすっきりと締めくくるのに最適な、清涼感あふれる一杯です。
以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり8千円ほど。素材の質と量を考えれば破格とも言える価格設定です。営業時間が長いため予約を取りやすいのも素晴らしい。接客も付かず離れずシステマティックな運用で好印象。

最近話題の焼肉屋は、店側に楽しみ方を仕切られすぎてて何だかめんどくさいので、当店のような伝統的な気楽さが貴重に思えて来る。焼肉屋はこういうのでいいんだよ。こういうのがいいんだよ。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
それほど焼肉は好きなジャンルではないのですが、行く機会は多いです。お気に入りのお店をご紹介。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

フード・ラック!食運 [ EXILE NAOTO ]
価格:3,344円(税込、送料無料) (2024/1/6時点)

寺門ジモン監督の焼肉映画。焼肉文化についてここまでシリアスに描けているのは監督の焼肉に対する並々ならぬ拘りに因るのでしょう。焼肉業界の有名店や有名人も沢山登場するので、焼肉通を標榜するのであれば必修科目の1本です。

ここ数年で滞在した高級・有名とされているホテルを一覧化し◎〇△×と記した

年間を通じて外泊が多いので、ここ数年で滞在した高級・有名とされているホテルを一覧化しました。

◎〇△×と記していますが、これは私が滞在した時点における感想であり、価格や為替の変動、混雑度合い、当時のスタッフの対応など偶然に因る部分も多いので、話半分に捉えてください。また、ハイアットやヒルトンは最上級会員であり、ひらまつは株主なので、素で予約する場合とは対応が異なるかもしれません。

費用対効果も重要視しています。お金に糸目をつけないお金持ちの方々とは観点が異なることをご承知おきください。

ところで、私は子連れ客とそれをコントロールできない宿泊施設を憎んでおり、そういった客層が支配的なホテルは自然と△や×が多くなります。しかしながら、これは見方を変えれば家族旅行に向いたホテルを選ぶ指標となり得るかもしれません。


【ハイアット】
<北海道>

<関東>
△:ハイアットリージェンシー東京ベイ

个園竹語(Gold Garden Shanghai Cuisine)/尖沙咀(香港)

今年も上海蟹(大閘蟹)の季節がやってきました。10月末から11月初旬にかけては旬がメスからオスへとバトンタッチされる時期であり、そのタイミングで中国を訪れると両方楽しむことができるという神回です。
お店は尖沙咀(Tsim Sha Tsui)のハーバーシティ内にある上海料理専門のファインダイニング「个園竹語(Gold Garden Shanghai Cuisine)」に予約を入れました。軒先には上海蟹(大閘蟹)をこれでもかというほど並べています。
ラグジュアリーホテルのダイニングの超高級店というわけではないのですが、店内はシックでエレガントな雰囲気。ショッピングモール内にあるとは思えない静かでプライベートな雰囲気を醸し出しています。なお、私が見た限りは全ての座席が個室もしくはボックスシートでした。
香港では食事中にそれほど酒を飲まないので、ポットのジャスミン茶をお願いしました。我々だけでなく、他のゲストも殆どがそうしています。スレッズ上で「お酒を注文しない客はゴミだ!」と発狂している日本の飲食店経営者たちは香港に来たら何を感じるのだろう。
まずは当店のシグネチャーである冷前菜4種を盛り合わせ。上海ガニのコースなのに普通にアワビの紹興酒漬けが出てくるのが恐ろしい子。前言撤回して酒を注文する勢いです。スモークした半熟卵は日本の味玉文化とはまた違った魅力があります。  
上海蟹の蟹味噌入りフカヒレ煮込み。濃厚な蟹味噌と身をこれでもかというほどぶちこんで、フカヒレと共にとろみがつくまで煮込んでいます。フカヒレの滑らかな食感と上海蟹の濃厚な旨味と香りが一体となり、実にけしからん味覚です。旨い、旨すぎる。
おや、エビも出てきました。プリプリとした食感の大きな海老を翡翠に見立てた緑鮮やかな野菜を炒め合わせ、濃厚な上海蟹の蟹味噌と身をソースと共に頂きます。ひと口食べれば、海老の甘みと蟹味噌のコクが舌の上で溶け合い、脳天を突き抜けるような幸福感に包まれます。
主役の上海蟹(大閘蟹)。重さが六両(約225グラム)のブツを丸ごと姿のまま蒸し上げました。セルフで専用のハサミを手に取り熱い甲羅と格闘。硬い脚を切り離し、関節を割り、細い道具で慎重に身を掻き出す。その作業はまるで宝探しのように夢中になれる楽しさがあります。クライマックスは甲羅を剥がす瞬間で、内側に潜む黄金色に輝く濃厚な蟹味噌に、わたし絶頂に達しました。
スモークした魚とお芋のお餅を共に頂きます。日本人には表現できない何とも複雑な味覚。ただ、先の蒸した上海蟹のカニ味噌の旨さが衝撃的すぎて、控えめな印象です。順序って大事やな。
続いて上海蟹の蟹味噌入り小籠包。薄い皮をそっと破るとオレンジ色に輝くスープがレンゲ一杯に溢れ出します。
中には上海蟹の身と味噌がこれでもかというほど詰まっており、凝縮された蟹の旨味が津波のように押し寄せ、その芳醇な香りに陶然となる。まさに上海蟹そのものを味わう至福のひと粒です。
こちらは魚の浮袋と大根の煮込み。魚の浮袋はプルプルトロリとした口当たりで、豚足のようなコラーゲンを感じます。ただ、主役は実は大根で、天下一品の「こってり」を限界まで煮詰めたような風味が沁みており、記憶に残る味覚です。
デザートは黒ゴマ団子と生姜のスープ。もち米で作った団子に甘い黒ゴマの餡が入っており、この団子を甘く煮出した生姜のスープに浮かべています。思いのほか生姜の風味が強く喉が良くなりそう。キンモクセイの花を散らしているのもオシャレです。
以上の上海ガニコースが598香港ドルで、2025年10月のレートだと約12,000円といったところであり、安い、安すぎる。東京で食べれば3-4万円は請求される質および量であり、やはり名物というものは、それを得意とする土地で食べるべきだと再認識した食事でした。もちろん香港できちんとした鮨を食べれば4-5万円は当たり前なので、このあたりはおあいこです。

食べログ グルメブログランキング

関連記事
それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。

本場志向で日本人の味覚に忖度しない中華料理が食べたい方へ捧ぐ書。東京の、中国人が中国人を相手にしている飲食店ばかりが取り上げられています。ある意味では中国旅行と同じ体験ができる裏技が盛りだくさん。

ラ メゾン コンフォターブル(La Maison Confortable)/麻布十番

現代フランス料理界の巨星、ピエール・ガニェールの右腕として長年活躍してきた赤坂洋介シェフが、2025年4月に満を持して自身の城「ラ メゾン コンフォターブル(La Maison Confortable)」を構えました。場所は麻布十番の雑居ビル4階で、店名はフランス語で「心地よい家」を意味します。ちなみにピエール・ガニェールは「ポトフ 美食家と料理人」という映画で、チョイ役ですが俳優デビューを果たしていますこれ豆な。
白を基調としたミニマルな内装で空白のキャンバスを想起させます(写真は公式ウェブサイトより)。窓が無いため人によっては圧迫感を覚えるかも。全体で15席ぐらいで、入口近くで小さな個室もあるようでした。

赤坂洋介シェフはフランスで経験を積み、2003年からピエール・ガニェールのもとで研鑚を重ね、2011年から2025年1月まで東京店のエグゼクティブシェフを務めました。ソムリエもピエール・ガニェール時代の同僚のようで、チームワークはバッチリです。
ワインの値付けはインターコンチの感覚を引き継いでおり、市中のフランス料理店としてはやや高め。コース料理に合わせたペアリングだと2万円程度だったのでお願いすると、これが大当たり。シェフの料理に寄り添うクラシックなチョイスであり、変なカクテルとか日本酒とかが出てこないのがとても良い。
アミューズからバリバリに凝っており最初から絶頂に達します。カリフラワー、サツマイモなど素材は素朴なものが多いのですが、正しく理を料っており、実に豊かな酒のツマミです。この少ない席数でこんな凝った仕事しちゃって身体は大丈夫かと余計な心配をしてしまうくらいです。
ひと口のホタテもゲストが入店しタイミングを見計らって調理に取り掛かっており、サクサクのホカホカ。アミューズが旨い店は何をしても旨いのだ。
ボタンエビ。海老の美味しさは当然として、彩り豊かな紅芯大根の千切りにはミミガーが組み込まれており。なるほどビストロで豚の耳を食べる機会はそれなりにありますが、このようにガストロノミックに楽しむのは初めての経験かもしれません。
牡蠣は牛肉で巻いてきます。主張の強い食材同士で大丈夫かしらと心配するのですが、これが予期せぬ調和を発揮しており抜群に美味。付け合わせにホウレンソウ、ソースはビーツといずれもクセの強いものばかりですが、不思議と一体感が感じられます。これはソムリエのワイン選びが大変だ。
全体を通してソースがしっかりとした料理が続くからか、パンはソースに寄り添う素朴な味わい。とは言え穀物の豊かな風味を感じられる地頭の良い味覚です。
フォアグラ。数年前に比べて段違いに値上がりした食材のひとつですが、これがまた実に丁寧に調理されており、プリンのような舌触りと後味の良さを楽しむことができます。季節のキノコの風味も良くエスカルゴとの調和も素晴らしい。フォアグラは惰性で出す店が多いので、当店のようにきちんと美味しいフォアグラ料理を出すのはかなり珍しいと言えるでしょう。
お魚料理は甘鯛。緻密な火入れにより、ウロコのクリスピーな食感と鯛の身のふっくらとした瑞々しさを実現。甘鯛の上品な味わいを最大限に引き出しています。付け合わせ(?)に梅を練り込んだカボチャのペーストが用意されるのですが、これがまた不思議と旨く、今度家でやってみよう。
メインは鹿肉。鉄分豊かな赤身の力強い旨味と上品な野性味に対し、ソースは甘さを抑えたチョコレートが基調としています。深いコクとほのかな苦味、複雑な香り。平成の攻めを感じさせる味覚です。面白いのはイカをトッピングしている点で、独創性を通り越して前代未聞の組み合わせではなかろうか。
〆にリゾット。1年間熟成させたカルナローリ米を用いており、ナッツのような豊かな風味と粘りを持ち、芯を感じる絶妙な食感を楽しみます。そこに辛うじて形を保っている牛タンが乗り、濃厚な肉の旨味と深いコクを加えます。仕上げに新鮮なウニをトッピングするのも挑戦的で、リゾットの熱でわずかに温められ、磯の香りとクリーミーな甘みを添えて全体をまとめ上げます。
お口直しにクレモンティーヌのシャーベット。柑橘の甘味と鮮烈な酸味が心地よく、ハイビスカスを用いたジュレの華やかな香りが洒落てます。
デザートに栗のペースト(?)にメレンゲ、柿。アクセントにマッシュルームも潜んでおり、その土を思わせる豊かな香りとほのかな旨味が、栗の風味と共鳴する。秋の味覚を巧みに組み合わせた驚きのあるひと皿です。
お茶菓子。最後の最後まで手抜き無しに凝っており、気の遠くなる仕事量でしょう。席数に対して妙に料理人が多いという印象を持ちましたが、なるほどこれだけ凝っていれば必要な配員なのかもしれません。
ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上の料理が3万円、ワインのペアリングが2万円、水やらなんやらでお会計はひとりあたり5万円強といったところ。ピエール・ガニェール時代よりも解き放たれている感があり、独創性みを強くした印象を受けました。奇抜な組み合わせが多いものの、いずれもきちんと美味しいのが素晴らしい。これは星の獲得間違いなし。かけてもいい。

食べログ グルメブログランキング


関連記事
「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。