山形県南陽市・赤湯温泉に拠点を置く「山形座 瀧波(やまがたざ たきなみ)」。創業100余年の老舗温泉旅館が地域固有の風土と工芸性を再解釈し、現代日本の小規模ラグジュアリー湯宿へと転換を遂げた代表的実例と言えるでしょう。この記事ではディナーをご紹介。宿泊記は別記事にて。
夕食は1階にある「ダイニング 1/365」で提供されます。コの字型のカウンターが特徴的なオープンキッチンで、18:40一斉スタートとイマドキのスタイルです。それにしても客層がとても良いですね。場所が場所だけにパパ活カップルはおらず、子連れもNGのためとても静か。きちんと食事に向き合う善男善女ばかりです。
アルコールはこの手のレストランらしい値付けであり割高に感じたので、思い切ってボトルで2本注文。ソムリエが個人的に買い集めていたものを良心的な価格で提供してくれるので私嬉しい。
ちなみに食事はコース1本勝負であり、コンセプトは「今、ここでしか味わえない料理」。置賜盆地の有機・無農薬野菜、料理長が自ら採る山菜、庄内の魚介、米沢牛などを中心に、旬の食材を活用するローカルガストロノミーです。
アミューズから凝っています。中でも右下のトンビ舞茸のフリットがいいですね。衣の軽やかな油の香ばしさの奥から、舞茸特有の野性的な旨みと出汁のような深みがじゅわりと染み出し、噛むほどに満足感が増す逸品です。
花ズッキーニ。中にはマッシュポテトとチーズが詰まっており、芋の甘みは穏やかで、チーズのコクが舌の中央に残り、バジルオイルが青くて少し胡椒めいた香りを演出します。スープ(ソース?)も程よくコッテリしており、乳脂肪のまろやかさを堪能します。
お造りは鯉だと案内があったのですが、実に華やかなプレゼンテーションで萌え萌えキュンです。清らかな水で育まれた鯉は一切の臭みがなく、適度に引き締まった身の澄んだ旨味と上品な脂の甘みが際立ちます。そこに鮮やかな彩りを添える野菜の中でも、主役級の存在感を放つトウモロコシの弾けるような強い糖度と瑞々しさが、魚の清廉な輪郭を華やかに際立たせます。全体をまとめる海苔のタプナードソースもセンスいい。
お椀は白味噌仕立てですが甘くなりすぎず、出汁の香りが先に立ちます。中央の青茄子は火が通りきらず、皮の青さと実のほのかな苦みが残り、その上に置かれたたたきおくらのぬめりが心地よい粘りと清涼感をもたらし、食感に軽やかなリズムを添えています。これまでの華やかな料理から一転、体にすっと染み渡るような優しい温かさです。
お凌ぎに十割蕎麦。十割ならではの蕎麦の香りと少しざらついた素朴な喉越しが特徴で、まず塩で食べると蕎麦本来の香ばしさと甘みがダイレクトに感じられ、素材の力強さに驚かされます。社長自らが打つという物語性も味わいの一部となるひと品。
お次は白茄子。じっくりと火を入れても身は崩れずトロリとした口当たり。そのクリーミーで淡雅な甘みに対し、惜しみなく盛り込まれたハーブの香りが立体的に重なり合い、はっきりした酸も差し込んできます。トロワグロの料理を想起させる、軽やかでありながら極めて知的な仕上がりです。
クロケッタとマッシュルームのタルト。クロケッタには様々な具材がぎっしりと詰まり、噛むごとに複雑な旨みが重なり合って広がっていきます。赤ワインにピッタリだ。添えられたタルトはマッシュルームを生で楽しむひと品であり、土と森の匂いが直接来る。熱々と冷涼、重厚なコクと清々しい瑞々しさという見事な対比が、互いの魅力を引き立て合う贅沢なコンビネーションを形作っています。
メインは米沢牛。目の前でジュワッと音を立てて脂が爆ぜ、立ち上る香ばしい煙とともに五感を直撃します。外皮は香ばしいものの内部はしっとり。肉そのものが強く、噛むと甘みが遅く現れ、脂は喉に残りません。おかわりまでサービスされる懐の深さも嬉しいポイントです。
目の前の釜で炊かれる「夢ごこち」。つやつやと輝く一粒一粒がしっかりと立ち、噛むほどに甘みと粘りが口いっぱいに広がる、まさに主役級のお米です。米沢牛の脂を受け止める相棒としても非の打ち所がありません。
デザートは山形県産のブランド桃「黄貴妃」。完熟ならではのとろけるような滑らかな舌触りで、マンゴーを思わせる濃密な甘みと華やかな南国風の芳香が口いっぱいに広がります。加えてヨーグルトの程よい酸味がここまでの豊かな味わいの数々をすっとリセットし、後味を軽やかに整えてくれます。
地元の食材を現代的な調理とプレゼンテーションで楽しむ、素晴らしいディナーでした。我々は1泊2食付きのプランで滞在しましたが、「日帰りプラン」の用意もあり、なんとこのコースが19,800円で楽しめるとのこと。これはちょっと信じがたい費用対効果であり、新幹線代を含めても東京で同等の食事を楽しむよりも安くつくかもしれません。
ちなみに別館オーベルジュ「OSTERIA SINCERITÀ」はヘッドハントしてきたミシュランスターシェフが厨房を統べているようで、こちらも魅力的。赤湯温泉の局地的なグルメ偏差値の上昇に今後も目が離せません。
関連記事
日本料理は支払金額が高くなりがち。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの日本料理ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い日本料理なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
- 乃木坂しん ←肝臓を整えてからどうぞ。
- かどわき/麻布十番 ←トリュフ!トリュフ!トリュフ!
- しのはら/銀座 ←予約困難となって当然だ。
- おぎ乃/赤坂 ←赤坂にミラクルな店が爆誕しました。
- 割烹 新多久(しんたく)/村上(新潟) ←魚は新鮮さが全てではない。
- 一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾(石川) ←能登半島にゴールデンルーキー現る。
- 御料理 一燈(いっとう)/福井 ←福井に来る機会があれば必ず予約を入れましょう。
- 比良山荘(ひらさんそう)/湖西(滋賀) ←鮎をたらふく食べ、熊肉に舌鼓を打ち、マツタケをザルのように食べてこの支払金額はお値打ち。
- 木山(きやま)/ 丸太町(京都) ←京都で一番好きなお店。
- カモシヤ クスモト/福島(大阪) ←独学でもトップに立ててしまうのか。
- 島之内 一陽/難波 ←カジュアル日本料理の最高峰。
- みつき/鳥取駅 ←この質のカニをこの価格で提供できるのは地の利。
- 馳走 卒啄一十(ちそう そったくいと)/広島市 ←中国地方、いや日本全体を含めてもトップクラスに好きな日本料理店。
- 御料理 まつ山/黒崎(北九州) ←北九州の旅程に是非とも組み込みたいお店。
- 日本料理 幸庵/藤沢 ←こちらも費用対効果が素晴らしい。ミシュラン三ツ星って実はお買い得?














