軽食の店 ルビー 泊店/那覇市

1962年創業の老舗大衆食堂「軽食の店 ルビー」。国道58号線沿いに位置し、泊港(とまりん)から徒歩圏内でアクセスし易く、地元民から観光客まで長年愛されるお店です。多くのスターを輩出した「沖縄アクターズスクール」の旧校舎が近かったこともあり、安室奈美恵をはじめとする生徒たちが通っていたことで知られています。
店内は広々としており、テーブル席にお座敷と、おひとりさまから家族連れまで誰でも入りやすい、古き良き沖縄の食堂といった趣です。ちなみに安室奈美恵のお気に入りは「オムライス」であり、現在でも彼女のファンが全国から訪れ、彼女がかつて座った席を想像しながら同じオムライスを注文する「聖地巡礼」が絶えません。
券売機に並ぶメニューは、ランチ類に留まらず、沖縄そば、チャンプルー、カレー、サンドイッチ、丼物など60種類以上にも及びます 。この多様性は、あらゆる客層の要求に応えるという食堂としての矜持の現れなのかもしれません。 

沖縄独自の「A・B・Cランチ」文化は当店が発祥とも言われており、不動の一番人気は「Cランチ」。トンカツ、ポーク、たまご焼き、サラダなどがワンプレートに盛り付けられ、スープとライスが付きながら千円でお釣りが来ます。
セルフサービスとして提供される「アイスティー」もまた、この店を語る上で欠かせない記号です。米国統治下のレモンティー文化に端を発しているそうで、あらかじめ砂糖が加えられており仄かに甘く、過酷な暑さの中で働く人々にとっての糖分補給としても機能していたようです。
定食に付帯する白いスープ。ポタージュのような見た目でありながら野菜の甘みも生クリームのコクも存在せず、どことなく小麦粉と出汁の風味が香るという独特の性格を持っています。多くの初見客を困惑させ、同時に多くの常連客を惹きつける隠れスペシャリテと言えるでしょう。
一番人気は「Cランチ」と前述しましたが、私は最上級の「Aランチ」を注文。圧倒的に茶色いビジュが特徴的で、どこが軽食やねんと文句のひとつも言いたくなるボリューム感です。
トンカツは厚切り肉の旨味を期待してはいけません。沖縄のトンカツは豚肉をこれでもかと叩き伸ばし、限界まで薄くするのがマナーであり、肉の存在感の無さは油の厚さでカバーします。肉を食べているというより揚げ物を食べているという冷めた認識が肝要です。
ハンバーグについても、肉汁が溢れるような本格派を想像するのは野暮というもの。つなぎの存在感が強く、どこか懐かしい「お弁当のハンバーグ」を巨大化させたような風情です。決して裏切らない安っぽい味が郷愁を誘います。
こちらは塩気の強いポーク缶にハムと玉子焼き、タコさんウインナー。家庭でも作れる、いや、家庭でしか出てこないようなこの組み合わせではありますが、これが沖縄の食堂におけるアイデンティティとも言えるかもしれません。
揚げ物の山に申し訳程度に添えられたサラダたち。栄養バランスへの配慮というよりは、視覚的な免罪符に近い存在。あってもなくても良さそうですが、無いと寂しい。計算された凡庸さとも言えるポジショニングです。
平皿にこんもりと盛られたライス。あくまで脂ぎったトンカツや塩辛いポークを受け止めるための白いキャンバスであり、空腹を満たすための質量そのものと言えるでしょう。冷え冷えとしており表面がわずかに乾燥していますが、それもまたご愛嬌。胃の中で膨らませるという実利的な役割に特化した潔いまでの無個性を楽しみましょう。
値段の割にはボリューム満点で、味わいは価格相応といったところでしょうか。当店での食体験は美食や鑑賞ではなく補給という作業に近いものかもしれません。特別に旨くはないが、無性に食べたくなる。そんな矛盾した感情こそが、当店の料理がソウルフードたる所以なのかもしれません。

安くて、重くて、どこまでも普通。その普通を何十年も維持し続けるという狂気。決して手放しで褒められる味ではありませんが、もしこの店がなくなれば、多くのうちなーんちゅの心と胃袋にぽっかりと穴が開くことでしょう。

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沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。