キメラ(CHIMERA)/祇園四条(京都)

八坂神社の南楼門からすぐという観光客に優しい立地。筒井光彦シェフは大阪イタリアンの名店「ポンテベッキオ」出身。食べログ4.10(2018年5月)で銅メダル獲得と躍進中。
お店の名前もドラクエ世代には堪らないネーミング。ちなみにキメラ(キマイラ)とは、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を有し、強靭な肉体を持ち、口からは火炎を吐くという特徴てんこ盛りの怪物です。転じて生物学におけるキメラとは、同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること、またそのような状態の個体のことを指します。どうでもいいですかそうですか。
外観は趣のある京都の町家ですが、店内はシンプルでモダンな空間設計。大きな窓から入り込む陽光とグリーンの輝きがマイナスイオンです。

連日の暴飲暴食で内臓が悲鳴をあげはじめ、かつ、今夜も予定が入っているためアルコールは1回休み。ミネラルウォーターはひとりあたり500円とリーズナブル。
ホタルイカのフリットと桜鯛の昆布マリネ。ホタルイカをフリットにするのは、ありそうでない技法。旨味の強いホタルイカがさらに凝縮されグッド。桜鯛も肉厚でゴロゴロとした食感。昆布風味もハッキリしており美味しゅうございました。
自家製フォカッチャのレベルが高い。ハーブや塩の風味がビビッドであり、私好みのベクトルです。
春キャベツのスープ。前夜の春キャベツのスープよりもキャベツの風味が濃密で旨い。生ハムやフォアグラのテリーヌ、芽キャベツも良いアクセントとなっており、ボヤっとしがちなスープ料理に輪郭を与えていました。
クッキーのような形のパンに上質な桜えびがこれでもかとのせられています。見た目通りの美味しさであり、三田のコートドールであればアミューズとして出されるレベルです。このような食べ物がコース料理の脇役に徹しているとは。当店の底知れぬレベルを感じた瞬間でした。
 琵琶湖産氷魚と九条葱のリングイネ。サービスの方が目の前で炙りボッタルガ(カラスミ)をたっぷりと削ってくれます。麺の量こそ一口サイズであるものの、氷魚とカラスミ、ネギの量が尋常ではなく、これはパスタ料理というよりも酒のツマミに近い魅力があります。

氷魚(ひうお)とは鮎の子供であり、祇園にしでも頂きましたがやはり地の利を活かした食材なのでしょう。
2枚目のパスタ。ガルガネッリ(ペンネのような形状の卵入りの生パスタ)をカルボナーラソースで頂きます。コッテリとした味わいで万人受けする味わい。具材は沖シジミ、カルドンチェッリ(プーリア州名物のキノコ)、イベリコ豚のチョリソーなど百花繚乱。味覚が賑やかなカルボナーラでした。
メインはオランダ産仔牛のリブロースのインパデッラ(フライパン焼き)。うーん、突然イマイチです。牛肉は豚肉のような味わいで、オランダ産に拘った意図もよくわからない。それでもオランダ産の食材を食べたのは、チーズとアスパラを除いては初めてだったので、良い経験にはなりました。ちなみにオランダには山が無く、死因の4%は安楽死です。これ豆な。
デザートは選択制。私はゴールデンパイナップルのローストにヨーグルトアイスを選択しました。こちらもメインディッシュと同様にパっとしない1皿です。シューには竹炭が練り込まれており、中にはピスタチオクリームが詰まっているのですが、目を閉じて食べればどうということのない小菓子です。
 お茶菓子はシンプルかつ少量。
芯のあるエスプレッソを飲んでごちそうさまでした。

立地も内外装も良く、序盤の料理の構成も好みのタイプでありあげぽよだったのですが、メインから急失速した印象です。夜のもっと長いコースであれば盛り返すチャンスはあると思うので、次回はディナーでシェフのフルパワーを味わってみたいと思いました。

気になったのはサービス。ソツ無くこなし失点は何もないのですが、どうも温かみに欠けており機械的に感じてしまいました。言葉使いは丁寧だが心はこもっていない。六本木スピローズとまでは言いませんが、もう少し心なごむ対応があれば、超一流レストランに一歩近づくような気がします。


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京都はとにかく和食がリーズナブルですね。町全体の平均点が高いのはもちろん、費用対効果も良いことが多い。その文化に影響を受けてか、欧米系のレストランにも目が離せない魅力がある。
JR東海「そうだ京都、行こう。」20年間のポスターから写真・キャッチコピーを抜粋して一冊にまとめた本。京都の美しい写真と短いキャッチフレーズが面白く、こんなに簡潔な言葉で京都の社寺の魅力を表せるのかと思わず唸ってしまいます。

港屋2/大手町

『社長島耕作が通い詰める蕎麦屋』で有名な虎ノ門そば処港屋。世界一並ぶ立ち食い蕎麦屋(タケマシュラン調べ)なのですが、ついに大手町への進出を果たしました。
私は開店15分前からスタンバっていたので一番乗りだったのですが、開店10分前からチラホラとシャッター待ち組が現れ始め、私が退店した11:50には数十人の行列が。恐らく世界で二番目に並ぶ立ち食い蕎麦屋でしょう。
メニューは「冷やし肉そば」一択で、券売機のボタンもひとつしか無いのが何だか可笑しいです。それならカウンターで1,000円札を手渡せばいいのではないかとの疑問が頭をもたげる。
定刻の11:30に入店し、カウンター前で茹で上がりをしばし待つ。この写真だけを見ると激しくオシャレなバーにしか見えず、まさか二郎系の立ち食い蕎麦屋とは信じてもらえないでしょう。ちなみに客の95%は男性です。
トレイにのった蕎麦とつけ汁、生卵を受け取り、店員に案内される立ち位置へと移動。虎ノ門の本店では生卵が食べ放題なのですが、ここではお一人様1つのみ。地価を反映してか、価格も虎ノ門よりは幾分高い。
いつ見ても美しい。これが二郎系の日本蕎麦である。丼に並々とすり切りに盛られた蕎麦の上に、ドグオォンと盛られた豚肉の山。荒々しくカットさらたネギ、良い意味で乱雑にぶっかけられたゴマと海苔には破壊的な美しさがあります。二郎風に表現すると大ブタカタメヤサイカラメです。
つゆはとにかく濃厚で塩分濃度が高い。隣の客は食べ始める前から蕎麦湯で割り、自身の好みに調整していました。たっぷりとぶちこまれたラー油もクセになる味わい。
麺は一般的な蕎麦屋の5倍はあるでしょう。アルデンテを通り越して生煮えのようであり、ムシャムシャグニグニという食感。蕎麦の香りだの喉越しだの、通常の蕎麦談義を超越した凄味があります。しかしながら1,000円1本勝負であり追加料金の大盛りができないため、虎ノ門級を覚悟していたほど多くは感じませんでした。
中腹で生卵を割り入れ味変。蕎麦にはたっぷりの豚肉がのっているのですが、それに生卵を絡めて口に含むとジャンクなすき焼きを食べているような気分で思わず笑みがこぼれる。
テーブルの上には天かすと蕎麦湯。ああ、生卵をもう1つだけ食べたかった。ちなみに当店では飲料すなわちお冷やの提供がなく、必要な方は持ち込む必要があります。持ち込みを全面的に認めている立ち食い蕎麦屋って珍しい。
テラス席もいくつかあり、その席を確保できれば大手町の企業戦士たちの羨望の眼を集めること間違いなし。蕎麦として本質的に美味しいかどうかはさておき、食後の満足感は絶大であることは間違いなし。思いっきり下品に蕎麦をかっ喰らいたい際に是非どうぞ。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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十牛庵/高台寺(京都)

ひらまつグループが初めて手がける和食料亭。老舗料亭「土井」のハコをそのまま譲り受け、数寄屋造りの匠である中村外二工務店がリノベーションを手がけての開業です。
八坂神社と清水寺の中間に位置し、観光客にとっては便利な立地。何人ものスタッフの方が軒先で出迎えて下さり、まるで私がベリーベリーインポータントパーソンになったような錯覚にとらわれます。
いくつかの個室がありますが、我々はライブ感覚が味わえるカウンター席に通して頂きました。 草喰 なかひがしのようにギュウギュウに詰めれば10人以上並べそうなものですが、今回は6人での利用と実にゆとりのある空間使いです。
いくぶん空に明るさが残っていたので障子を開けて頂きました。眼前に広がる二千坪の庭園。明治41年に数寄屋造りの名工・上坂浅次郎ならびに北村捨次郎により建築された館と、庭師七代目小川治兵衛が作り上げた庭園を有する日本でも有数の歴史的建築物とのこと。
酒の値付けが支離滅裂。この瓶ビールは1,200円でありサービス料が15%に消費税が8%と、世界でもトップクラスに割高なエビスです。日本酒も1合3,000円を超えるものが主体で軽く引く。一方でワインが格安。ドンペリの06と09がいずれも19,000円と小売価格と同等、サロンに至っては40,000円〜と、アリババの洞窟のように財宝に溢れています。

和食には日本酒と決めてはいるものの、こうもワインが割安だと、うっかりワインに目が向いてしまう。店側も気を利かせて併設のフレンチレストランのワインリストまで持ってきてくれ、これが火に油を注いでしまい、何を飲むべきか今世紀最大級に悩んでしまいました。妻からは「飲みたいならさっさと注文しなよ。ただ、あんたが和食には日本酒だ、テロワールだ、って常日頃ごちゃごちゃ言ってることは指摘しておく」と毒にも薬にもならぬアドバイス。
えんどう豆のスープに旨味の強いジュレ。野太いホワイトアスパラガスの上に良い香りのするホタテを載せ、ウニ先輩とキャビア先生をトッピング。これはもう、誰が何を言っても旨いですね。ひらまつらしくフランス料理のエスプリもあるなあと一瞬思いましたが、この皿は何料理とかそういう話ではなく、食べ物として本質的に美味しいです。
お椀は出しの旨味が峻烈。非常にわかりやすい味付けで、脊髄反射で美味しい。具材は揚げた鯉なのですが、素材特有の臭みなどは一切感じられず、素材の良い点だけを抽出しております。
刺し身は沖縄のマグロにタイ。これはまあ中くらい。美味しいは美味しいのですが、2万円の料理であれば当然といったクオリティです。それでも芽ネギと山葵のフレッシュさが心に残りました。
焼き物は長崎のアマダイ。目の前で串を打って塩をふって炭火で焼いてくれるのですが、それだけのシンプルな調理なのになぜここまで旨いのか。長崎に嫁いでアマダイ漁師になるのも悪くないなと思わせるほどの旨さでした。ポーションも大きく、下手な焼き魚定食よりも食べごたえがあります。オリーブには味噌を詰め込む一工夫。
端午の節句にちなみ、ちまきと柏餅。シュルシュルと紐を解くと、
ちまきには小さなごはんに鯛の昆布〆(?)。笹の香りとタイの旨味が渾然一体となり、シンプルながら実に美味。
柏餅には穴子。ぷっくりと膨れ上がったその身の表面は香ばしく焼き上げられており、食欲をそそる旨さです。
肉料理として松阪牛。ううむ、間違いなく美味しいのですが、唐突に脂が強く、ヒステリックに感じてしまいました。もっと違うシチュエーションで食べたいこの料理は。
そうそう、お酒の話なのですが、散々悩んだ挙句に結局日本酒をお願いすることにしました。十牛庵という京都のお酒だったので、これは当店のPBでしょうか。1合で3,000円と人生トップクラスに高価な日本酒でしたが、味はまあそれなりといったところ。
こちらを振り返っているのは稚鮎。素揚げしてマルゴット頂くと実にビターな大人の味で、生の息吹が感じられます。その苦味を全面的に受け止めるのはやはり濃いめの旨い出汁。好きだなあ、ここの出汁。湯葉やミョウガなどの脇役陣にも抜け目なし。
お食事前にお漬物。このお漬物のレベルが非常に高く、決して食事のサイドストーリーでなくこれ単体に心から美味しい。酒のツマミとしてあっという間に食べきってしまうと、何も言わずにスっとおかわりを出して下さいました。よく食べる客に気持ちよく出す店。心が通じ合った瞬間である。
赤出汁には生麩。生麩って無条件に美味しいですよね。生麩屋に嫁いで生麩職人になるのも悪くないなと思わせるほどの旨さでした。
鯛めし。ひとりあたり約1合とたっぷりのボリュームです。食べきれなかった分は持ち帰れるかと相談すると、ここのところ気温が高く傷んでしまう恐れがあるためNGとの回答。

私はひらまつグループの株主であり、言ってみればこの店のオーナーだ、食あたりになったとしてもそれは全て私の責任であり、当局に駆け込んだりするようなことは絶対にしないから、何としてでも持ち帰らせてくれ、さあ、いますぐ弁当箱を持って来い、と強要したというのは真っ赤なウソであり、黙ってその場で全部食べ切りました。
ゴマやショウガの香りが強烈で、ややもするとカオマンガイチキンライスのようなオリエンタルな風味が感じられます。米の質も炊き加減もパーフェクト。日本料理の美点ってこういうところだよなあと、ひとり納得する美味しさでした。
水菓子には苺。一粒500円はしそうな巨大植物であり、ジャクっとした食感が堪りません。グラニテを敷き詰める試みも興味深い。
お菓子はカキツバタをイメージしたもの。美しくはあるのですが、ひたすらに単調な甘さが続く割に量が多く途中から飽きてしまいました。まあ、和菓子とはそういうものである。
〆にお抹茶。まさにジャパニーズ・エスプレッソといった味覚であり、口腔内に強烈なカフェインが満ちてきます。
お会計はふたりで5万円強と決して安くはありませんが、これだけ趣のあるハコの中でしっとりと落ち着いて食事ができるのだから、非日常の体験という意味を含めてリーズナブルと判断します。みなさんの京都の料亭のイメージをそのまま具現化したようなお店であり、外人を連れて行けば死ぬほど喜ばれることでしょう。

目の前の料理人には威圧的なところは全くなく、とても居心地良く食事を楽しむことができました。そういう意味で、料亭の入門編として利用するのも良いかもしれません。京都旅行で勝負の和食を1つ挟む場合、当店を選べば外れることはまずないでしょう。

次回は、お隣のフランス料理店にお邪魔してみたいと思います。飲めなかったワインをたっぷり飲むのだ。


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