八重勝(やえかつ)/新世界(大阪)

大阪という都市の食文化を語る上で、新世界とその中心を貫くジャンジャン横丁を避けて通ることはでません。その横丁で最も長い行列を誇る老舗の串カツ専門店「八重勝(やえかつ)」。周囲には観光客向けの串カツ屋が乱立していますが、地元住民は当店しか認めない者が殆どです。私は1年ぶり100回目の訪問です。
週末のピークタイムは1時間待ちはザラであり、警備員が行列の整理にあたるほどなのですが、今回は平日の16時というヘンテコな時間にお邪魔したため1秒も待たずに入店することができました。当店にはもう20年近く通っていますが、待ち時間ゼロというのは初めてであり、LINEグループで親族一同に自慢したほどです。
アルコールにつき、ビールは大瓶が650円、バケツみたいなジョッキでも800円と良心的。中瓶が1,100円のちょづいた焼鳥屋とは価値観が大きく異なります。

ビールで喉を潤した後は寿司屋さながらに並ぶ目の前のショウケースから好みの食材を注文していきましょう。当店では冷凍食品を一切使用せず、素材には自信があるとのことです。
大阪の串かつ店における基本的な約束事として、単に「串かつ」と注文した場合、それは牛肉を指します。八重勝もこの伝統に倣っており、当店での式の開始を告げるメニューでもあります。1人前3本セットで420円。衣は「サクサク」という表現よりも「ふわっと」「しっとり」と形容するほうがしっくりくる。この軽やかで柔らかい食感の秘密は、衣にすりおろした山芋を加えていることにあります。
続いて「どて焼き」。いわゆる牛すじの煮込みであり焼いてはいないのですが、大阪ではそのように呼称することが条例で定められています。多くの店が醤油ベースの濃い味付けであるのに対し、当店では甘口の白味噌をふんだんに使用。ドロリとした甘さと深いコクが生まれ、揚げたての串かつを待つ間の最初の一品として最適。こちらも1人前3本セットで420円です。
私の個人的なオススメは「えび」。1本550円と他の串に比べて突出して高価ですが、その価値は食した者すべてが認めるところでしょう。注文が入ってから殻を剥き始めるという徹底した鮮度管理により、この上なくプリプリ。新世界のプリンセス・プリンセスです。
エビ以外にも、タコ、イカ、シシャモ、夏場のキス、冬場の牡蠣など、旬で質の良い魚介類が取り揃えられています。もちろんこれらもまた、冷凍品を一切使用していません。 
玉ねぎ、れんこん、グリーンアスパラ、しいたけといった野菜類も決して脇役ではなく、直火で熱した鉄鍋でラードで一気に揚げ切っており、野菜本来の甘みが最大限に引き出されています。
手元には口直しのためにザク切りの生のキャベツが用意され、サラダ代わりに楽しむことができます。「ソースの二度づけ禁止」は絶対の掟であり、大阪ではこれに違反すると極刑に処せられます。法律で決まっています。その他、90分の時間制限やスマホやタブレットでのゲーム禁止、動画撮影禁止など、イマドキのルールも定められているので遵守しましょう。
その他、もっちりとした食感が楽しい「生麩(なまふ)」 、衣の中でとろける熱々の「カマンベールチーズ」 、そして大葉の爽やかな香りがアクセントとなる「豚だんご(しそ入り)」  など、他ではあまり見られないユニークな串も用意されています。
今回も素晴らしかった。ネット上の口コミには「横柄」「上から目線」「無愛想」といった厳しい批判が数多く寄せられており、その急かされるような注文の取り方や質問に対するぶっきらぼうな返答、全体的に温かみに欠ける対応が一部の客に不快感を与えているようですが、このあたりは元々スラム街で「居酒屋で覚醒剤を売るな!」がスローガンなのに、君たち何を期待しているんだと問いたい。
このハードボイルドな世界観は文化的なフィルターとして機能しており、それは暗に「八重勝は長居をせず、真剣に串かつを味わう場所である」というメッセージを店側が発信していることに他なりません。「お客様は神様」的なサービスを期待するananのセックス特集買ってそうなタイプにはまず受け入れられない価値観でしょう。この無愛想さこそが、逆説的に硬派なブランドイメージを支える不可欠な要素なのだ。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。