飲み物メニューは簡素。「ワインセット」という、ペアリングっぽいものがあったのでそちらを注文。シャンパーニュ+ワイン2種で3,600円と一見お買い得ですが、量がかなり少ないので大酒飲みには物足りません。
赤ピーマンのムース。たっぷりのトマトソースに鎮座する滑らかなムース。甘味や独特のクセなどを上手く活かした大人の味。全体として爽やかで、ナベノイズムのガスパチョを思い出しました。
三重産のハマグリと天草の新海苔のベニエ。シンプルな料理ながら絶品。プリプリとした肉厚のハマグリに歯を立てるとジュワジュワと流れ出る海の風味。海苔の風味も強烈で人倫にもとる旨さです。
青森産とげくり蟹、トマトの雫のジュレ。青森県ではとても珍重して名物でもあるカニです。そのカニの旨味をトマトの酸味というテクニックで上手くまとめている印象。一見何が入っているのか良くわからない料理ですが、口に含めばはっきりとカニとトマトだと認知することができます。
合わせるワインはグリューナー・ヴェルトリーナー。ワイン単体では美味しいのですが、料理とのマリアージュという意味ではあまりピンと来ませんでした。
ホワイトアスパラガスの茹で上げ、カルボナーラ仕立て。ホワイトアスパラガスから流れ出るエキスの甘さに悶絶。茹でるだけでここまで美味しく仕上がるとは罪な食材である。卵黄やベーコンなどはわかりやすい味覚で、万人受けする調味でしょう。
パンは素朴に小麦の美味しさを引き出すタイプ。美味しいのですが、全体としての料理の量が多かったので、あまりパンに取り組むことができませんでした。
愛媛産カワハギのフリットと肝のサラダ。フォアグラではなくカワハギの肝というセンスが最高ですね。フワフワと繊細な口当たりに濃厚で身体に悪そうな旨いが味がほとばしる。これは日本酒が欲しくなる。身をフリットにしたものもたっぷりと組み込まれており、ザクザクと異なる食感が楽しい。野菜にほのかな苦味があり、こちらも大人向け玄人好みの素晴らしい料理でした。
新タマネギの冷たいスープと大間の赤ウニ。タマネギのコクと甘味が強烈で、タマネギ畑をそのまま煮詰めたような力強さがあります。赤ウニも、これがウニだと言わんばかりの単刀直入な味わいであり、あまりに美味しくものの数秒で完食してしまいました。
函館産本マス(サクラマス)の炭火焼きと山菜。焼き目の香ばしい香りに、マスの脂、思い切りの良い調味。私はマスという魚にそれほど興味を持ち合わせてはいないのですが、この料理に限っては話は別。こんなにも旨いマス料理を食べたのは初めてです。
肉料理の前に新ショウガのグラニテ。紅しょうがの汁をかき氷にしたような味であり、これはそんなに好きじゃありません。
メインは仔羊や豚、銘柄牛の様々な部位から選択できるのですが、私は最もベーシックな追加料金の無いニュージーランド産の仔羊を選択。香ばしい焦げ目の香りの奥から漂うミルキーな風味。罪悪感を覚えるほど肉質は柔らかく、王道中の王道といった味覚に思わず頷いてしまいます。
ワインは3種から自由に選ぶシステムだったので、ル・マルキ・ド・カロン・セギュールをチョイス。客に下駄を預ける作戦はあまり好きじゃありません。量も恐ろしく少ない。
チーズも最初からコースに組み込まれており、フランス料理に対する信念を感じます。ミモレット、エポワス、ロックフォールと無難なラインナップですが、やはりどれもベーシックに美味しいですね。エポワスはもっと熟成したほうが好き。
デザートに入ります。まずはグレープフルーツのプリン。グレープフルーツの酸味が食べやすさに一役買っており、満腹でありながらスイスイと食べすすめることができました。
こちらはバニラアイスにレンズ豆、タピオカ、黒蜜。ぜんざいのような和洋折衷の味わいであり、シェフの遊び心が感じられます。
デザートのメインはホワイトチョコレートとレモンのスフレ。目の前のオーブンでムクムクと成長していく様は、食べての期待を膨らませます。ハフハフしながら口に含むとクリーミーでフツフツと舌先で溶けていく。食べる楽しみがある。味ももちろん二重丸。
コーヒーまで抜かりなく美味。ごちそうさまでした!
かなりの多皿であり、それぞれの量もしっかりあって、フランス料理の祝祭とでも言うべきコースの流れでした。モダンなプレゼンテーションは多いものの、いま何を食べているのか素材がはっきりとわかる芸風も私好み。東京でもここまでレベルの高いフランス料理屋は中々ありません。ここまで高次元なフランス料理を腹いっぱい食べて、料理代金1.3万円というのは控えめに言って奇跡です。
課題はワインですね。リストは貧弱であまり思い入れも感じられませんでした。酒にうるさい人は、事前に持ち込みの相談をしたほうが良いかもしれません。また、かなりカジュアルな雰囲気であり、料理を出すテンポも物凄く良いので(所要時間1.5時間!)、ロマンティックに浸りながらじっくり愛を語らい合う、といった感じでもありません。わかっている人がわかっている人と来るお店です。
いずれにせよ、素晴らしいお店です。もっと派手にやれば大儲けできるだろうに、小さなお店で実直に料理に取り組み続ける。成功を求め過ぎない旨いもの好き本位のお店でした。オススメ!
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