米福(こめふく)/恵比寿

令和の米騒動を横目に米をガンガンに食べさせることを是とする「米福(こめふく)」。お造りや焼魚、しゃぶしゃぶ、すき焼きといった料理を、炊き立ての土鍋ゴハンを引き立てるための助演者として位置づけるという面白いコンセプトです。食べログでは百名店に選出。恵比寿駅から歩いて5-6分の雑居ビル地階に位置します。    
店内はカウンターが7-8席にテーブル席がいくつかあって、トータルでは20席強といったところでしょう。客単価は1万円程度であるため、ゲストは皆、自腹で臨む善男善女ばかり。料理人のオッチャンたちも仲が良さそうで、居心地の良い雰囲気です。
瓶ビールは800円ほどで、日本酒は片口(150ミリリットル)で1,200円から。後述の通りとにかく米で腹パンになる店なので、ドリンクを飲む隙間が無くなり、結果的に酒量が減って安くつくのが面白い。
お口取りは湯葉。滑らかな舌触りに心がほどけ、とろりと溶けるような繊細な食感とともに、大豆ならではのふくよかで優しい甘みがじんわりと広がります。
お造りは本マグロ、シマアジ、タイ、ホタテ。マグロは濃厚な旨味と上品な酸味が格別。ホタテは淡泊ながらも旨味と甘味が強くクリーミー。対照的に、シマアジはコリコリの歯ごたえから上質な旨味が駆け抜け、真鯛はプリプリの弾力から噛むほどに奥深い甘みが滲み出ます。
お米とトウモロコシのスープ。旬のトウモロコシをお米を一緒にすり流すことで生まれる、ぽってりと優しく滑らかな舌触りが特長的。自然で豊かな甘みが主役です。
煮穴子の炙り。ふっくらと煮た穴子の表面をさっと炙り、タレの香ばしい匂いで食欲を刺激します。凝縮されたタレの濃厚な旨味に続き、じっくり煮込まれた穴子の身がふわっと解けていきます。
鱧と万願寺唐辛子の天ぷら。サクッと軽い衣をまとった鱧は上品で繊細。夏の訪れを告げる、旬の味覚の競演だ。
林SPFポークのしゃぶしゃぶ。きめ細かく柔らかな肉質が心地よく、豚特有の臭みは一切ありません。驚くほどすっきりとした味わいです。
焼魚は銀ダラ西京漬け。脂のノリが抜群の銀ダラを上品な甘さの西京味噌にじっくりと漬け込み、皮目を香ばしく焼き上げます。少し焦げた味噌の芳醇な香りが食欲をそそる。箸を入れれば、ほろりと崩れるほど身はふっくらと柔らか。
焼魚に合わせて土鍋ゴハンがやってきました。玄米の状態で仕入れて毎朝精米する5種類の銘柄米から好きなものを選び、注文後に土鍋でふっくらと炊き上げます。ほのかな甘みと弾けるような食感が舌先を撫でていく。お供の漬物とじゃこ山椒、のり佃煮も泣かせてくれます。
黒毛和牛のすき焼き。と言っても甘ったるいものではなく、上品な割り下にさっとくぐっただけの繊細な味覚。先のお米の旨さを邪魔することのない、綺麗な肉料理です。
土鍋ゴハンはもう一種で、コチラは鮑とイクラの炊き込みゴハン。鮑の滋味深い旨味と、肝の奥深いコクを吸い込んだお米ひと粒ひと粒が主役であり、そこへ宝石のように輝くイクラをたっぷりと流し込みます。説明不要の率直な美味しさであり、先日お邪魔したパン生地みたいな土鍋ゴハンに怒りすら覚えてきました。
味噌汁は仙台のお味噌「あなたのために」を使用しているそうで、キリリとした辛口で芯の通った力強い味わいが印象的。白米に炊き込みご飯に味噌汁。もうすっかり満腹で気絶しそうです。
デザートはパッションフルーツのアイスクリームでしょうか、南方系の楽観的な味覚が夏っぽさを演出します。

以上のコース料理が8千円で、酒やらサービス料やらを含めてお会計は1万円強といったところ。旨い米をこれでもかというほど堪能し、日本人に生まれてきて良かったと再認識させてくれるディナーでした。お米好きな大食漢と一緒にどうぞ。

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恵比寿も十番に負けず劣らず良い街ですよね。1度住んで、片っ端から食べ歩いてみたいなあ。よそ者ながら印象に残ったお店は下記の通り。
恵比寿を中心に話題店が整理されています。Kindle Unlimitedだと無料で読める。それにしては圧倒的な情報量。スマホやタブレットに忍ばせておくと出先で役立ちます。

天妃そば (てんぴそば)/久米(那覇)

那覇市久米にある沖縄そば専門店「天妃そば (てんぴそば)」。色んなランキングの上位に位置するような派手さはありませんが、流行に左右されず地元住民に一貫して愛され続ける老舗です。場所は旭橋駅から歩いて5分、那覇西消防署の斜め前です。
店内にはカウンター席とテーブル席があり、合計で20席ほどが用意されています 。かりゆしを着た近隣の勤め人や作業着姿のニイチャンが支配的で、観光客を見かけることはありません。ちなみに店名である「天妃」は、かつてこの地域に存在した町名に由来するそうです。
控えめで無欲で謙虚な私ですが、この日は「よくばりそば」を注文。本ソーキ、軟骨ソーキ、三枚肉がすべて入った全部乗せ。麺も自動的に大盛りで剛毅1,200円です。ちなみにランチタイムには「じゅーしー(沖縄の炊き込みご飯)」または「いなり寿司」がサービスで付きます。
肉がたっぷりで嬉しくなりますね。三枚肉すなわち 豚バラ肉を甘辛く煮込んだものは沖縄そばの定番具材。本ソーキは骨付きの豚あばら肉すなわちスペアリブを柔らかく煮込んだもの。骨から肉がほろりと取れるほど煮込まれています。軟骨ソーキ豚の軟骨部分を長時間煮込み、とろけるような食感に仕上げたもの。コラーゲンたっぷり。
麺は細めのストレート麺でツルツルとした喉越しが心地よい。なかなかにコシもあり、歯応えを楽しむことができます。スープは鰹節がベースでしょうか。あっさりとしていながらもコクがあり、塩味はやや強め。ほどよく酸味が感じられ、素朴ながらも飽きのこない味覚です。
カウンターにはセルフサービスのフーチバー(よもぎ)が置かれており 、青い苦みが感じられ、そばに清涼感が加わります。
サービスの「じゅーしー(沖縄の炊き込みご飯)」。そばのスープで炊いているのでしょうか、程よく塩気と旨味が感じられます。豚肉、ひじき、にんじん、しいたけが細かく刻まれており、ノスタルジックな味覚です。
しみじみ美味しいそばでした。店構えや客層を含め日常に溶け込む沖縄そば。「EIBUN」のような派手派手なそばも良いですが、毎日食べても飽きの来ない味覚とは、当店のようなものなのかもしれません。しみじみどうぞ。

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寒い季節は沖縄で暮らしているので、旅行やゴルフだけで沖縄に来る人よりかは一歩踏み込んでいるつもりです。沖縄の人ってネットに書き込みしないから、内地の人が知らない名店が結構多いです。
沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。

Yo-Chi(ヨチ)/オーストラリア全土

メルボルン発のセルフサーブ型フローズンヨーグルトとアサイーボウル専門店「Yo-Chi(ヨチ)」。健康志向のデザートとして急速に拡大し、オーストラリア国内に56店舗以上を展開。Z世代を中心にカルト的な人気を集めています。
まずはソフトクリーム的な機械で、好きなフレーバーを好きなだけ盛り付けます。私はマンゴーやストロベリーなどの女子っぽいフレーバーはパスし、より女子っぽいアサイーのみで自前のボウルを構築します。
続いてビュッフェ台のようなエリアでトッピング。数十種類のものが用意されており、フレッシュフルーツにクランチやクッキー類、ナッツやスプレッドにソースなどが用意されています。単価が統一された量り売りの店なので、イチゴばっかり盛り付ける、などが最も得する構図でしょうが、それはそれで何しに来たかわからないので、バランスよく盛り付けていきましょう。
最後にレジで盛り付けたボウルを測り、グラム単位で課金されていきます。ちなみにUber EatsやDoorDashなどのデリバリーサービスでは、カップのサイズに応じた固定価格制を採用しているようです。
今回はこれだけ盛って15豪ドル(約1,500円)程度。ハワイに比べると大幅に安く、日本のアサイーボウルと似たような価格設定です。味わいについても他店と似たようなものですが、食べたい量だけを購入することができるという点で、使い勝手の良いお店です。
2025年8月にはアジア進出の第一歩としてシンガポールへも進出し、オープン直後に200人以上の行列が発生し耳目を集めました。韓国ヨーグルトアイス「ヨアジョン(Yoajung)」も日本にも進出を果たし成功を収めつつあるので、当店が日本で開業しても行列間違いなしでしょう。 ブランドのコンセプトは「Share the Chi」(チを分かち合おう)であり、「Chi」とは自然のエネルギーを意味するそうなので、日本の漫画の「チ。」とコラボしたら面白そう。

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エピセ(épicer)/千葉駅

千葉駅近く、そごうの裏あたりにある「エピセ(épicer)」。フランスの3ツ星レストランで経験を積んだシェフが手掛けるフランス料理店であり、食べログでは百名店に選出されています。ちなみに旧店名は「セレナ デ ナチュラーレ」だったそうです。
店内はカウンター席にテーブル席に個室があり、トータルでは20席ぐらいでしょうか(写真は食べログ公式ページより)。白と木を基調とした明るく温かみのある空間で清潔感があります。

阪口善則シェフはホテル勤務を経て渡仏。「タイユヴァン」「アピシウス」「ジョルジュブラン」などの有名どころで研鑚を重ね、帰国後はリーガロイヤルホテル東京のメインダイニング「ガーデン」の料理調も務めたそう。とは言え華々しい経歴から想像されるような堅苦しく威圧的な雰囲気は全くありません。
ワインのペアリングは3杯で3千数百円、5杯で5千数百円と良心的。料理に寄り添う王道のセレクションで好感が持てます。
アミューズは豚肉のリエット。サクサクと小気味よい生地に豚肉の旨味が詰まったなめらかなリエットがたっぷり。これから始まるコースへの期待感を高めるひと品です。
ハモとイベリコ豚のチョリソ。いわゆるハモン・イベリコであり(違う)、ハモの繊細な旨味とチョリソの力強い風味が意外に合う。マイクロリーフのフレッシュな苦味が全体を引き締め、上手くバランスを保っています。
天然のスズキのムニエル。皮目はパリッと香ばしく身は驚くほどふっくら。天然のスズキが持つ繊細でクリアな旨味を最大限に引き出しています。ソースも濃厚で実にリッチ。これぞフランス料理というひと皿です。
自家製のライ麦パン。ライ麦特有の素朴で少し土のような香りがふわり。濃い焼き色の外皮と対照的に内側は密度が高くシットリもっちり。高級ハンバーガーのバンズにしても良さそうだ。
メインは黒毛和牛のロティ。美しいロゼ色に仕上げられており、ナイフを入れると、その断面からは肉汁が静かにあふれ出ます。和牛ならではの上質で甘い脂が口の中でとろける。ソースも実にクラシックで王道の味わいです。
リゾットも出ます。お米(雑穀?)の独特の食感と芳醇な風味が心地よく、舞茸も組み込まれており、野趣あふれる豊かな香りが印象的。チーズの濃厚なコクと塩味も脇役主人公といった味覚です。
抹茶のテリーヌ。抹茶特有の品格ある香りと心地よいほろ苦さ。ねっとりと濃密でなめらかな口溶けも見事であり、丸ごと買って自宅の冷蔵庫に在庫したいくらいです。

以上の「シェフ スペシャルランチコース」が税込で7,400円 。料理の質を考えれば信じがたい費用対効果であり、都心であれば倍請求されても納得も得心もするでしょう。こんなフランス料理店がターミナル駅すぐ近くにあるだなんて、千葉市民は豊かだ。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。

ザ ルース ムース(The Loose Moose Tap & Grill House)/ブロードビーチ(ゴールドコースト)

ゴールドコーストのブロードビーチにある「ザ ルース ムース(The Loose Moose Tap & Grill House)」。「Koi Dining」や「Maggie Choo」などの人気店を手掛けるGennari Groupの運営であり、プロヒビション時代(禁酒法時代)をテーマにしたタップハウスです。
店内は1920年代のアメリカのスピークイージー(密造酒場)をイメージしているそうで、ちょっとダークでエロい雰囲気です。石炭を模したオレンジ色の金属製ドラム缶から放たれる照明が洒落てます。
飲み物はスマホからQRコードを読み込み、その場で注文と決済を済ませるという便利な仕組み。クラフトビールの品揃えはもちろんのこと、ウイスキーも世界中から集めており、100種を超えるラインナップを誇ります。様々な種類を少しずつ試したいゲストのために、4種類のビールを選べる「ビア・パドル」があり、また、当店とブルワリーが共同開発したオリジナルのコラボレーションビールの用意もありました。
サラダメニューにあった「タイポケ(THAI POKE)」を注文するのですが、色々と魔改造されており作画崩壊しています。それでも野菜は新鮮で、香ばしくグリルされたチキンも悪くなく、ビアバーで出るなんちゃってタイ風サラダと考えれば悪くないディールです。量もたっぷりだ。
フィッシュタコス。こちらもタコスというよりはフィッシュアンドチップスのチップスの代わりにトルティーヤを敷いたような代物です。とは言えノーザンクイーンズランド産の高級魚バラマンディを用いた上でビール衣で揚げているなど、フィッシュアンドチップスとして見れば中々の美味しさです。
以上を2人でシェアし、軽く飲んでお会計はひとりあたり5千円といったところ。ド観光地の人気のタップハウスでこれだけ飲み食いしてこの支払金額は悪くありません。なんなら東京の僻地にある「T.Y. HARBOR」よりも安いくらいである。

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