新潟きっての歓楽街「古町(ふるまち)」にある「鮨はたけやま」。県外客にとっては「兄弟寿し」が有名でありゲストも東京の人ばっかりですが、当店は地元のグルマンからの支持が根強い。
店内は白を基調としたシンプルで清潔感あふれる空間(写真は公式ウェブサイトより)。カウンターに7-8席と4名掛けのテーブルが1卓あります。
畠山正義シェフはお父様も鮨職人だそうで、札幌の名店「すし善」で経験を積み、上京後はいくつかの鮨店で研鑽を重ねました。その後2017年に女将の故郷である新潟に居を移し当店を開業。無駄口を叩かない真面目一徹な職人であり、港区のお喋りしてばっかりな連中に見せてやりたいです。
ビールや日本酒は新潟のものが用意されており、県外客にとって胸熱ポイントです。しかも1合1,300-1,500円程度の値付けであり、アルコールで変に儲けようとしないのが素敵ですね。女将さんも実に感じの良い接客で、とても居心地の良い時間を過ごすことができました。
名刺代わりにズワイガニのクリームコロッケ。衣はきめ細かくサクッと軽やかに揚がっており、中にはズワイガニの身がたっぷり。つい先日、老舗で酷いカニコロッケを食べてきたばかりなので、感動もひとしおです。
佐渡で水揚げされた高級魚「イタチウオ」。身はしっとりと引き締まっているだろう。淡白ながらも上品な甘みと旨みが感じられます。梅肉のソース(?)で味わいが引き締まります。
イワシのシャリ抜きの巻物。イワシの持つ濃厚な風味と、とろけるような食感がダイレクトに伝わります。酸味も豊かで、脂の乗ったイワシの味わいを爽やかに引き立て、後味をさっぱりとさせています。
シマエビ。身は厚く、むっちりとした弾力があり、噛みしめるほどに、エビ特有の濃厚な甘みと旨みが口の中に広がります。赤酢を用いたほんのりと温かいシャリが、シマエビの甘さをさらに引き立て、一体感のある味わいを生み出しています。ちなみにお米は佐渡のコシヒカリを用いているそうで、粘り気が強く一粒がしっかりとしています。
ガリはフレッシュで瑞々しく、サラダのように爽やか。お口直しにもよし、酒のつまみにもよし。よしよし。
キス。淡白で上品な味わいであり、天ぷらだけじゃなくて生でもいけるじゃんと気づきを得たにぎりでした。
南蛮海老。いわゆる「ホッコクアカエビ」であり、それを4本も贅沢にのせたにぎりは、見た目にも華やか。口に入れると、甘くぷりぷりとしたエビの身が口いっぱいに広がり、とろけるような食感とともに濃厚な甘みが押し寄せます。
コハダ。強すぎず弱すぎず程よい〆具合。コハダ本来の旨みを引き出しつつ、酢の酸味と塩味が心地よく調和しています。
フナベタ。ヒラメに似たまったりとした舌触りと、凝縮された旨みに特長があり、淡白ながらも滋味深い味わい。東京では馴染みの無い魚ですが、新潟では定番の大衆魚だそうです。鮨職人は食材が無限にあって楽しいだろうな。
佐渡産ノドグロの手巻き。軽く火を通しており、全体として香ばしく、中の脂が活性化しています。海苔の香りがノドグロの豊かな香りと融合し、口に含めばジュワっと溶け出す上質な脂の甘みと旨みがシャリに絡みます。
アオリイカ。細かく包丁が入れられており、見た目にも美しく口当たりも円やか。ねっとりと舌に絡みつき、噛むほどに甘みがじんわりと滲み出てくる。
赤身のヅケ。柑橘の風味がさりげなく効いており、ねっとりとした赤身の食感と凝縮された旨みに、柑橘の爽やかな香りが加わることで、後味は驚くほど軽やか。赤酢のシャリとのバランスも絶妙です。
イクラ。醤油漬けにしておらず、まさに旬の時期だけの特別な味わいです。プチっと弾ける薄い皮の中からクリーミーで雑味のない純粋な旨みの液体が溢れ出す。醤油の強い風味がない分、より繊細で優しい味わいと、鼻に抜ける海の香りを楽しむことができました。
海苔のお椀。村上の地物をふんだんに用いており、蓋を開けた瞬間に、豊かで力強い磯の香りが立ち上ります。お出汁は海苔の風味を邪魔しない澄んだ味わいで、シンプルながらもリッチな味わいです。
オリジナルのおいなりさん。干瓢巻きを薄い油揚げで巻いており、じゅわっとした食感を楽しみます。
ギョクには南蛮エビのすり身と大和芋を用いているそうで、スフレのように肌理が細かく、しっとりふわふわとした食感に仕上げられています。エビの風味と上品な甘みが豊かだ。
追加で名物の「トロたく巻き」を注文。作画が崩壊するほどタネが乗っかっており、巻物というよりもトロとタクです。ちなみにタクアンではなく奈良漬けを用いており、奈良漬けの持つ芳醇な酒粕の香りと複雑な塩味、シャキシャキとした食感が脂たっぷりのトロによく合う。〆の巻物のつもりが日本酒が進んでしまいました。

おまかせコースが16,500円で、酒やら追加やらで総額は2.5万円。東京であれば倍請求されるであろう質および量であり、タネは地物が多く県外客歓喜。東京の人にはあまり知られていませんが、「兄弟寿し」や「鮨 登喜和(ときわ)」と並んで新潟を代表する鮨屋のひとつとして間違いはないでしょう。テーブルチェックからのメールのスタンプも芸術点高い。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 鮨m(すしえむ) ←東京という街が必要とする鮨屋。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 鮨 在(ざい)/広尾 ←これこれ、鮨とはこれですよ。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- 初音鮨(はつねすし)/蒲田 ←西の照寿司、東の初音鮨。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- くるますし/松山 ←松山への旅行が決まればいの一番に予約したいお店。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- 鮨処木はら(すしどころきはら)/函館 ←鮨屋の答えは函館にあったのです。
- 鮨 十兵衛/福井市 ←福井への旅行が決まれば最初に予約したいお店。
- 鮨 大門/魚津(富山) ←東京の鮨はもうオワコン。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 乙女寿司(おとめずし)/片町(金沢) ←私的北陸一番鮨。
すしのにぎりについての技術を網羅した決定版的な書籍。恐らくはプロ向けの参考本であり資料性の高い便覧でしょうが、素人が読んでこそ面白い傑作。写真がとても美しく、眺めているだけでお腹が空いてきます。



















