伏見駅から歩いてすぐの場所にある「一富士(いちふじ)」。大正十二年(1923年)創業の、1世紀を超える歴史を誇る老舗であり、鰻を中心に夏には長良川で獲れた鮎、冬には天然のとらふぐといった季節ごとの味覚を提供しています。
念のために予約をしてからディナータイムにお邪魔したのですが、1階ダイニングは半分の入り。やはり鰻は昼のイメージが強いのかもしれません。ちなみに2階には完全個室が完備されており、宴会が可能な大部屋から少人数用の部屋まで複数用意されているようです。
「特上」の鰻メニューを追加すると「う巻」も付いてきます。ふっくらと焼き上げられた出汁巻き卵の中に鰻の蒲焼を巻き込まれており、卵の優しい甘さと鰻の濃厚な旨味がよく合う。単品でお代わりしたいくらいだ。
うざく。香ばしく焼き上げた鰻の蒲焼を細切りにし、シャキシャキとした食感のキュウリの酢の物と和えました。キュウリの瑞々しさと鰻の香ばしさのコントラストが楽しく、食欲をそそる前菜として最適です。
きもてり。鰻の肝タレで照り焼きにしており、独特のほろ苦さと濃厚なコクが特長的です。甘辛いタレがその苦味を和らげ、心地よい調和をもたらしています。日本酒との相性は格別だ。鰻が焼きあがりました。私は6千円の「特上櫃まぶし」を注文。まず一膳目は、香ばしく焼き上げられた鰻とご飯をそのまま味わい、鰻本来の旨味とタレの風味を楽しみます。二膳目は、ネギやわさび、海苔といった薬味を加えることで、さっぱりとした異なる味わいに変化します。そして三膳目は、温かいお出汁をかけてお茶漬け風に。鰻の脂が出汁に溶け込み、まろやかで優しい味わいが口に広がります。
「肝吸い」も自動的に付帯します。透き通ったお出汁は鰹と昆布の旨味が丁寧に引き出されており、繊細ながらも深みのある風味が口の中に広がります。主役である鰻の肝は臭味がなく、肝が持つほろ苦さが、お出汁の上品な味わいに絶妙なアクセントを加え、全体の味を引き締めています。
鰻は関西風の地焼きであり、蒸しの工程を挟まずに強火の炭火で一気に焼き上げているため表面はカリっと、中はふっくら。鰻の脂の旨味を閉じ込めつつ、濃い目のしっかりしたタレで力強く仕上げています。
鰻を受け止めるご飯には新潟産コシヒカリを使用しているようです 。粘り、甘み、香りのバランスが取れており、濃厚なタレが染み込んでもその一粒一粒の輪郭を失わず、最高の状態で鰻の旨味を引き立てています。
連れは「特上うな重」を注文。5,800円です。いくらか交換こしましたが、櫃まぶしのように包丁でザクザクしていないので、より鰻の歯ごたえを楽しむことができました。山椒を少し加えると爽やかな香りをアクセントとするのもまたをかし。
デザートにスイカを頂きこちそうさまでした。少し前に訪れた「うな春(うなはる)」では着席後に「全商品一律5%増し」の怪文書が唐突に配布され、料理を味わう気分では無くなってしまいましたが、ああ、やっぱ鰻って美味しいじゃんと再認識できたディナーでした。また、調理も調味も私好みであり、観光客は少ない地元民向けでそれほど高くなく、行列も無く、まさに穴場と評すべき鰻屋です。注文を受けてから調理に取り掛かるためか調理に時間は要しますが、出来立てを楽しむための儀式と理解した上で楽しみましょう。

関連記事
仕事の都合で年間名古屋に200泊していたことがあり、その間は常に外食でした。中でも印象的なお店をまとめました。
- 名古屋うなぎランキング2017 ←1ヶ月集中して昼夜うなぎを食べまくった成果。
- ル マルタン ペシュール(LE MARTIN PECHEUR)/吹上 ←常連になりたくなるお店。
- a.ligne(アリーニュ)/新栄町 ←名古屋いや日本においてもトップクラスに好きなフランス料理。
- l'adour (ラドゥール)/池下 ←コース料理1万円未満の部においては日本屈指の実力店。
- ル・タン・ペルデュ(Le Temps Perdu)/伏見 ←名古屋・ベスト・費用対効果賞。
- レミニセンス(Reminiscence) ←フロリレージュ的な食後感。構成要素が非常に多く食べ手に経験を求める味覚。
- 壺中天/新栄町 ←王道フレンチ名店中の名店。
- 鈴波本店 膳処 (すずなみほんてん ぜんどころ)/栄 ←高級ホテルの和朝食より全然美味しい。
- ラ・グランターブル ドゥ キタムラ(La Grande Table de KITAMURA)/高岳 ←赤字ではないかと心配になるほどの費用対効果。
- ル ピニョン(LE PIGNON)/大曽根 ←この支払金額はリーズナブルを通り越して奇跡です。
- うめもと/高岳 ←ちょっとした神現場。
- うな富士/鶴舞 ←噂に違わず凄いお店。