「富山ブラックラーメン」の元祖として知られる老舗ラーメン店「西町大喜(にしちょうたいき)」。1947年に屋台としてスタート。創業者のムッシュ高橋青幹(通称「オヤッさん」)が、富山大空襲からの復興事業に従事する多くの肉体労働者たちの塩分補給とエネルギー補給を目的に、濃い醤油ベースのラーメンを考案したことが伝説の始まりです。
私は色んな富山の方から「大喜で食べないとブラックラーメンを食べたとは言えない」「しょっぱすぎて健康を害するので食べるべきではない」「塩と醤油の味しかしないので家庭で再現できる」などと伺っており、まさに賛否両論(どちらかというと否が多い)。ちなみにグーグルマップのスコアは奇跡の3.3でした(2025年7月)。
ボロボロの木造建物に足を踏み入れると、店内も実に昭和の趣き。座席はカウンターのみで20ほど、壁には有名人のサイン色紙がたくさん飾られています。
ところで「大喜」は暖簾分けを一切行わず、西町の一店舗のみでその味を提供し続けてきたのですが、2000年に有限会社プライムワンに身売りされ(「カプリチョーザ」や「ペッパーランチ」の会社)、現在はチェーン展開が進みつつあり、それに関して直系の弟子が「西町大喜」の正統性に異を唱えるなど、トラブルが生じているようです。
「中華そば並+ライス」が1,100円に100円の「生玉子」を付けて合計で1,200円。私は普段、ラーメンを食べる際は糖質過多のためライスは注文しないよう心掛けているのですが、当店に限っては「絶対に注文すること。ラーメンはオカズというコンセプトの店だし、そもそもライスが無いと塩辛くて食べることは不可能」という謎アドバイスを得ていたので注文することとしました。主題の「中華そば」。なるほど内容物が見えなくなるほどの色合いであり、ブラックを通り越して紫がかっているようにすら見えます。味わいにつき、覚悟していたほど塩辛くはなく、完飲はしないけれども普通に飲めます。それよりも酸味がその存在を主張しており、ラーメンの味わいとしては非常に珍しいタイプと言えるでしょう。
基本的にレンゲは提供されず、セルフサービスで取りに行く必要があります。というのも、当店のラーメンはあくまで「オカズ」であり、スープは飲むために設計されていないからだそうです。生卵を溶き、麺をくぐらせてみました。おお、これはすき焼きの際に限界まで煮詰まったうどんを生卵で食べる感覚に似ている。どこか郷愁を誘う味覚です。
チャーシューは手切りで提供され、チャーシュー麺と見紛うほどたっぷり用意されています。ほどよくスープを吸収し、ゴハンのオカズにピッタリ。凄いのはメンマで、その塩辛さはスープ以上かもしれません。山ほど散らされた黒胡椒の風味でB級感たっぷり。
脅されていたほど塩辛くはなく、結構おいしいじゃん、というのが素直な感想です。尖ってはいるが、そこまで問題作ではない。グーグルマップのスコアは異常に低いですが、なんやかんやで常に席は埋まっているので、このポジショニングこそが「ソウルフード」というものなのかもしれません。

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