日本酒の「満寿泉(ますいずみ)」で有名な「桝田酒造」による再開発により、劇的な再生を遂げつつある岩瀬地区。この日は岩瀬再生プロジェクトの中心をなす存在である「酒蕎楽 くちいわ(しゅきょうらく くちいわ)」にお邪魔しました。パっと見「ちいかわ」に空目してしまいそうなかわちい店名です。
岩瀬の歴史的な町家をリノベーションした店内。入ってすぐ目に飛び込むのは、おそらく蕎麦屋としては世界一大きなテーブルであり超クール。また、蕎麦屋としては珍しくカウンターに面したオープンキッチン方式であり、蕎麦を挽くところから調理の様子をライブ感たっぷりに楽しむことができます。
日本酒は大家の満寿泉に全て統一、なんてことはなく、全国の銘酒がバランスよく取り揃えられています。日本酒と共に愉しむことを前提に全ての料理が設計されているので、飲み物は全て店主にお願いすると良いでしょう。個人的には満寿泉のノンラベルの一升瓶がエモかった。
名刺代わりにいきなり蕎麦が登場します。ピンピンに角が立ち、しなやかながらコシも感じさせる細切りの蕎麦。まずは何もつけずに啜って風味を楽しみ、その後、塩やワサビ、つゆで自由に味わいます。
続いて挽きぐるみの蕎麦。店主自ら栽培している蕎麦だそうで、濃厚で素朴な香りとほのかな甘みが特長的。殻を含むため、色は濃い灰褐色で、食感はやや粗め。噛むほどに蕎麦の深い味わいが広がります。
「大人のハッピーセット」に自然と嬌声があがります。主役の鴨に、板わさ、蕎麦の実を練り込んだ焼き味噌などなど蕎麦屋ならではのツマミがズラリ。この一式だけで盃をいくつ重ねたことか。
冒頭2枚の蕎麦と同じ生地を板状に広く切った蕎麦の刺身。カットを変えるだけでこうも風味が変わるものかと、さながら美味しい科学実験です。
トウモロコシは生のままと蒸したものを食べ比べ。生のトウモロコシはフルーツのように瑞々しく、あれ?トウモロコシって果物だっけ野菜だっけ穀物だっけと自らの知識が不安になる味覚。

蕎麦がき。目の前で蕎麦の実をグラインダーで粗めに挽き、その場で鍋で練り上げていきます。出来立ての蕎麦がきはピスタチオのように緑がかっており、味わいもナッツのようなニュアンスが感じられます。ほどよく粒感が残っており、ねっとりと官能的な舌触り。これまで貴方が食べてきた蕎麦がきとは全く違うものです。
〆は温かい蕎麦。具材は海苔のみで、熱い出汁に触れた瞬間、磯の香りが立ち上り、その旨味が上品なつゆに溶け出します。蕎麦本来の香りと力強さ、出汁の奥深さ、海苔の豊潤さが溶け合い、コースの〆に相応しい優しく心温まる一杯です。
デザートはスイカのシャーベット。スイカの風味が凝縮されており、スイカよりもスイカの味がします。
当店の質と量を超える蕎麦は無いであろうと確信めいたものを得たディナーでした。蕎麦はもちろんツマミもあるし、日本各地の銘酒も堪能できるしで、蕎麦好きの酒飲みにとっては堪らないコンセプト。
岩瀬には当店に加え「カーヴ ユノキ(Cave Yunoki)」や「御料理ふじ居」、「ピアット スズキ チンクエ(Piatto Suzuki Cinque)」、など、綺羅星のごとき才能がこの地に根を下ろしており、食道楽にとってはディズニーランドに近い存在となりつつある。

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- 鮨 大門 ←銀座の半額で味と居心地の良さはそれ以上。
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- ピアット スズキ チンクエ(Piatto Suzuki Cinque) ←青は藍より出でて藍より青し。
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