PATH(パス)/代々木公園

2015年12月オープンの新しいお店。代々木公園駅から徒歩数分の立地であり、このあたり旨そうなお店がたくさん並んでいます。
お店は共同経営なのかなあ?新宿「キュイジーヌ [s] ミッシェル・トロワグロ」の同僚ふたりが2枚看板として腕をふるいます。パティシエはトロワグロの本店でシェフ・パティシエまで昇りつめた凄腕だそうな。
コース料理は6,800円にアルコールのペアリングは5,200円。料理に比してペアリングがそれなりの価格なので内容を問うと、だらしない姿勢で首を傾けながら覇気なく適当に説明する店員。1万円を超える単価の接客としてはプロ意識に欠けています。
最初のペアリングはビールでした。どのようなビールなのかと問うと、店員はカウンターの奥に引っ込みタブレットで調査を開始し暫く戻って来ない。ペアリングとして推奨するのであればきちんと把握しておくべきでしょう。「何あの子?接客しながらポリポリ首掻いちゃってさ。友達じゃないんだから」と、私の連れもお冠。
カリっとした土台に秋刀魚と茄子を並べたもの。トッピングはレモンピールの塩麴漬けです。旨い。強い秋刀魚の旨味に茄子の秋の香り。生地の食感も変化があって楽しく、何枚でも食べたくなる味わいです。
パンも中々の味わい。なるほどビストロというよりも寧ろパン主体の朝食屋として名を馳せただけありレベルが高かった。
根セロリのムースにウニと乗せる。ソースは焦がしタマネギ。ソースが素晴らしいですね。オニオングラタンスープの局部を煮詰めたような味わいであり、シンプルながらも迫力のある味わいでした。
ワインはイタリアものから。が、料理には全く合わない。あれだけ芳醇でコクのある料理なのに何故こんなにもザキっと尖った、刺々しい風味を合わせるのか疑問。
海老だけを用いたスープドポワソン(ビスク?)。たっぷりのバターでソテーしたホウレンソウやトマト、マッシュルーム、ムール貝が加わります。スープそのものの味わいは良いのですが、ムール貝の臭みが強くてアウト。トマトの酸味も強すぎであり、糸の切れたタコのようにまとまりのない味わいでした。
モンテプルチアーノで造ったロゼ。良く言えばチャーミング、悪く言えばイチゴキャンディのようにペタペタな味わい。ペアリングという観点においては、どう考えても海老の強い旨味には合わないと思うのだけれど。
魚はヒラメ。ソースはホエーとバターです。が、美味しくありません。嘘だろというほどバターの風味が強く、その割に酸味も強いという複雑怪奇に練り上げられた味覚。ヒラメそのものの質も凡庸でした。
やや甘味の残るドイツのリースリング。先の酸味にも寄り添い、これは悪くない合わせ方です。
メインは鹿児島県産「さつま福永牛」。肌理が細かく肉の味が濃いのですが、それでいてサッパリともしているという、アプリオリな味わいです。ただ、盛り付けが寂しいなあ。せっかくの美しい断面なのに、まるで王国を失った国王のように淋しげでもありました。
ワインはロワールのマルベック。思いきりどす黒い赤であり、野性味を通り越して牛舎のような香りがします。あれだけ繊細な肉にどうしてこのようなメガトン級をぶつけてくるのか理解に苦しむ。
デザート1皿目はメロンのアイス(?)。メロンの皮に敷き詰められた生地との組み合わせが良いですね。アブサンを用いたカクテルと共にセンスを感じる1皿でした。
デザート2皿目はパリブレストの当店風。これはどっちゃくそ美味しいですね。外観ならびに砕く際の触感、口に含んだ食感、程よい甘味を湛えた生地とソースなどなど、スイーツとしてヒャクパー完成しています。本日ダントツで一番のお皿でした。
ペアリングのワインはポート。こちらも先のマルベックと同様に、合わせて飲むには主張が強すぎます。先にデザートを平らげたのち、食後酒としてのんびり飲むのが良いでしょう。
小菓子も少量ながらレベルが高い。なるほどトロワグロの本店でシェフ・パティシエまで昇りつめたという経歴は伊達ではない。
他方、コーヒーは薄っぺらい味わいで全然美味しくありません。あり?ここ、カフェ的なベクトルでコーヒーが売りでもなかったんじゃなかったけな?
お会計はひとり1.3万円。料理は全般的にバターと酸味が強く、どの皿も似たような味付けであり、特徴的ではあるものの特長はありません。ペアリングは私の好みとはかけ離れており、変化球でストライクゾーンをギリギリ狙って全部外しているという印象。接客態度の悪さならびに商品知識の無さについては既に述べた。中くらいの料理・イマイチなペアリング・チープな接客という意味で、非常に割高に感じた夜でした。
それでも店内は予約でいっぱい。席が空けばすぐにフリーのアラカルト客で埋まるという具合に商売は繁盛しています。この代々木的ダウナー系空気感がウケているのかなあ。客層は均質化しており、無印良品の店員のような雰囲気を湛えたオーガニックな男女が多いという印象です。地味ハロウィンで「PATHの店員と客」に仮装したらウケそう。

「やっぱりこの辺りはカフェの街ね」と、麻布十番在住の外資系アパレルPR担当の港区女子は意地悪そうに語る。確かに食べログの口コミは105件のうち夜の口コミは27件のみであり(2018年11月)、やはりここは昼のお店なのかもしれません。接客やアルコールに期待するのではなく、「夜までやってるカフェ」程度の期待値で来るとちょうど良いでしょう。


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