T.Y.HARBOR(ティー・ワイ・ハーバー)/天王洲


ある女の子からしばらくぶりに連絡が来ました。平日朝7時から交わすLINEとしては、実に深みのあるやりとりである。
そうと決めればフットワークの軽い我々。翌日ランチでビールを飲もうとT.Y.HARBORを指定される(写真は公式ウェブサイトより)。
「久しぶり。何年ぶりだっけ?あたし今すごく緊張してる。昔はあんなに一緒に飲んだっていうのにね。今日、どうしてこのお店を指定したかわかる?ここ、あなたとあたしが初めて一緒にお酒を飲んだ店なんだよ」

「しばらく連絡できなくてごめんなさい。これ、お詫びのプレゼント」ウワーオ、これはセンス良い!足がつくので詳細は明かせませんが、とっても嬉しい品々です。これを手にするたびに彼女のことを思い出すことでしょう。
ちなみに今夏、TY系列はランチタイムにテラス席限定でフリーフローを実施しているのですが、この日の気温は37℃と生きているだけで体力を消耗する気候であるため、泣く泣く店内席でアラカルト注文です。
新作ビールの『マ・セゾン(Ma Saison)』で乾杯。華やかな香りが特長的で、甘味と苦味のバランスがちょうど良い。1杯目に最適です。

「離婚しちゃったんだ。ヒモ気質っていうのかな?どうもあたしは与えすぎちゃうところがあって、男をどんどんダメにしていくの。ま、これはあたしの性癖みたいなもので、一種のプレイだから、一生治らないと覚悟はしているんだけれど」
表参道のCRISTA(クリスタ)でもそうでしたが、当店系列のランチタイムはキンキンに冷えた美味しいお茶を気前良く何杯でも出してくれるのが嬉しい。

「でも、ヒモにも色々あって、レベルの高いヒモとそうでないヒモがあるのね。ヒモならヒモらしく家事を完璧にこなすとか、社交的でどこに連れてっても恥ずかしくないとか、あたしのことを癒してくれるとか、そういうことをこっちは期待してるわけ。あなたみたいにね」彼女は早口で一気にまくし立てる。あなたみたいにね、の短いフレーズが耳に貼り付いて離れない。
ランチにはパンも付随します。恐らくお隣のbreadworks(ブレッドワークス)製であり、プレーンながらも深みのある味わい。

「その点、前の旦那は超使えないヒモだったなあ。ドジでデブでブサイクで気が利かない。なんであんなのと結婚したんだろうって、未だに自分を許せない。あたしが家出同然で飛び出して、後日ママが荷物を引き取りに行ったわけ。ママが『娘がご迷惑おかけしました』ってマナーとして謝ってるのに、ヒトコトも口きかないんだって。あんなに器の小さい男、さっさと別れて正解だわ」
+500円で追加できるランチスープ。アジアンテイストの冷製スープ。恐らくココナッツミルクがベースにあり、キュウリやコリアンダーで清涼感を演出し、チリパウダーでアクセント。素材の味が濃くツルっと冷えているのもグッドです。

「男が稼げないのは構わないんだけど、何かに打ち込んでいては欲しいんだよね。画家でもロッカーでも何でもいいから、本気で好きなことに向かって努力しているのなら、収入の多寡は問わない」だってあたしが稼げちゃうんだからさ、と、彼女は小さく付け加える。
先週のSMOKEHOUSE(スモークハウス)では売り切れで涙を飲んだ、『メキシカンライムラガー(Mexican Lime Lager)』に再挑戦。キレのあるラガーにたっぷりのライム果汁。この季節にピッタリです。

「今いい感じのヒトはねえ、これまでの男たちと雰囲気違って、すごくカタい人かな。すごくカタい仕事についてて真面目なヒト。カタい性格っていうか、とっても努力家なとこが好きかな。カタい人も悪く無いなあって最近思うようになってきた。ねえ、カタいのが良いカタいのが良いって、何か下ネタみたいになってない?大丈夫?
彼女はファラフェルピタサンドを注文。「すごいボリューム。半分食べて」と思いがけず満腹コース。市井のコロッケ程の大きさのファラフェルが合計4つも挟まっており、これで1,350円というのはかなりお得なのではあるまいか。
私はT.Y.HARBOR BURGER。サイズは250gをチョイスし2,000円。たっぷりのフレンチフライが地味に美味しくビールのツマミに最適です。
粗挽原理主義の私としては、もう少しザクザクとした食感のパティのほうが好き。また、暑さで感覚が麻痺していたので、この日はどうも調味が薄いように感じました。

「あなたは全然変わらないよね。こっちから連絡はしなかったけど、タケマシュランは全部読み込んでるから、大体の動向は把握してるつもり。あなたのお友達の発言には笑ったわ。でもいるよね、いくら自分に使ってくれるかで自分の価値を測ろうとする女の子」
「あなたの魅力ってニッチで、自己表現をお金に頼らないから、そういう女の子とは相容れないかもね。あなたの魅力はわかる人にしかわからない。一緒に過ごせるだけで充分価値がある。一種の麻薬みたいなものね。クセになる」ま、そういうのは宗教戦争みたいなもので、互いの言い分は絶対に解かり合えないから、そういう女の子と関わるのはやめましょう、と、20代の女の子に説諭される私。
食後のコーヒーもつきますが、これはあんまり美味しくありません。350席を相手にレベルの高いコーヒーを淹れろというのは土台無理な話でしょう。

「カタい話に戻るけど」すわ再び下ネタかと背筋を伸ばして気構えする。「あなたもカタい努力家だよね。そういうところ、すごく好き。あたしのママもあなたのことが大好きで、『○○さん(私の名)の子供つくっちゃいなよ。できちゃった離婚を狙いなさい』って、ずっとけしかけられてたもん」
あっという間に閉店時刻。「ここはあたしにご馳走させて」店員から伝票をひったくり、1万円札を手渡す彼女。あれ?きみってカード派じゃなかったっけ?「証拠を残さないためよ。今日、あたしがここで、あなたとこうしてるってことは絶対にヒミツね」

また近々、と小さく手を振り颯爽と去って行く彼女。第2章の幕開けである。


このエントリーをはてなブックマークに追加 食べログ グルメブログランキング

関連記事

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。