レストラン ラ フィネス (Restaurant La FinS)/新橋

杉本敬三。8歳で自分用の包丁と砥石を持つようになり、高校の卒業を待たずして渡仏。各地のレストランで研鑽を重ねつつ、12年間に及ぶ修行を終え帰国。2012年に当店をオープンさせ、翌年に日本最大の料理人コンペティション「RED」の初代チャンピオンに。平たく言うと日本フランス料理界のエースです。
新橋を雑踏を抜けた雑居ビルの地下1階。1日のゲストは8人まで、お店は完全週休2日、ワインのボトル売りはせずバイザグラスでと、飲食業界としては色々と型破りな仕組み。「金儲けをしたいなら商売人になれ、人を感動させたいなら職人になれ」を地で行くフランス料理店。
ペアリングは松竹梅と3種あり、松コースだと1皿につき2~3杯が供されるということだったので、無難に竹コースを注文。ペアリング内にシャンパーニュもついてくるのが嬉しいです。
アミューズは左からビーツのスープを固めたもの(?)、フォアグラのマカロン、空豆のムース、オリーブにシメジです。フォアグラのマカロンが基本に忠実で美味しく、空豆は滋味溢れる味わいで私好み。
1皿目はハモ。骨切りせず骨を1本1本全て抜くという気の遠くなるのような作業。それをカツレツ化させるというある意味家庭料理のようなコンセプトです。私はハモがそれほど好きではないのですが、この料理においてはハモそのものが実に美味しかった。

ソースは甲殻類系のジュレとラヴィゴットソース(酢、食用油、野菜のみじん切りをベースとしたソース)の2種。いずれも骨格のある味わいであり、シェフはかなりの酒好きとみた。
極めて酸味が豊かであり、先のラヴィゴットソースと調子の良い溶け合いを見せてくれます。
様々な野菜たち。いずれも大地の力強さを感じる味の濃い野菜なのですが、それよりもベースとなっていジュレの旨味が印象に残りました。旨味が非常に強烈であり私はとても好きなのですが、お年寄りや女子には少々厳しい味付けかもしれません。
サラダに合わせてリースリングを飲み比べ。なのですが、1人あたり2杯つくというわけではなく、2人で2杯です。我々のような枯れたカップルであれば大した問題ではないのですが、回し飲みはれっきとした間接キスでありワンチャンあると信じている男子校出身者などはどのような振る舞いをみせるのか。
いずれにせよ、当店はシェフが自身でワインの目利きを行い、きちんと料理に合わせてくるのが良いですね。フランス料理の料理人は、ワインにのめり込む人と全く興味を示さない人に二極化する中、当店のシェフは圧倒的に前者です。
パンは素朴ながらきちんと旨い。ただし料理の総量としてたっぷりな部類に入るので、あまりバクバク食べてしまうと後半厳しくなってしまうことでしょう。
バターは2種。柚子風味と、黒トリュフ風味。いずれも滅法旨く、今夜の隠れたファイン・プレーです。
こちらはポールボキューズのスペシャリテ「V.G.E.に捧げるトリュフのスープ / 1975年にエリゼ宮にて(Soupe aux truffes noires V.G.E. / Plat créé pour l'Élysée en 1975) 」へのオマージュ。
バターの濃い焼きたてのクロワッサンに、唇で噛み切れそうなほど柔らかい牛肉を合わせます。このままだと若干、肉とパンがバラバラに感じてしまうのですが、
スープに浸して食べると見事な調和を見せてくれました。スープもスープの飛び切り味が強く、それ単体で食べると厳しいものがあったのですが、クロワッサンが含まれることにより円やかな味わいに。サンドに肉だけでなく、スープにも肉(牛タン?)がゴロゴロと含まれており食べ応え抜群。
赤系料理と白系料理にどうワインを合わせるのかと楽しみにしていると、なるほどヴァン・ジョーヌ。さらに奥行きが出る組み合わせで面白かった。
ノドグロにマツタケ。徐々に和食に寄りつつあります。それにしてもノドグロは心から美味しい食材ですね。魚は肉に比べて味と価格のバランスが取れていないことが多く、フグやウナギは人が勝手に名前と値段をつけただけではないかと疑義を呈しているのですが、ノドグロに限っては値段相応の素晴らしい味覚があると感じています。マツタケの芳醇な香り、食材から滲み出たエキスと共に至福のひととき。途中、先の柚子バターを用いて味変するのもいとをかし。
贅沢にもモンラッシェを飲み比べ。このクラスがペアリングで出てくるのは凄いですね。ワインはシェフの12年間のフランス生活で培った人脈を元に手に入れているものが多く、日本における一般的な価格体系よりも安くあがっているのかもしれません。
メインは鴨。シェフが田植えから関与しているコメに枝豆、黒トリュフ、フォアグラが層になっています。捉えようによってはかなりジャンキーな一皿。シェフがREDのグランプリを受賞した際の親子丼(テーマは卵。そこにベシャメルのピラフ+鶏のフリカッセ+白トリュフ)のエスプリも感じられました。

味については語るだけ野暮というもの。決定論に従うというべきか、美食に偶然はないというべきか、どう考えたって美味しい料理でした。
ワインはルーミエのクロ・ヴージョ。繰り返しになりますが、12,000円のペアリングにこのクラスが出てくるのはちょっと信じ難いです。何でもシェフがフランスから後生大事にハンドキャリーで持ち帰ってきたそうな。とにかく香りが豊かでいつまでもグラスをクンクンしていたい衝動に駆られます。
デザート1皿目はメロン縛り。メロン風味のクリームにメロンの果肉、トップを飾るのはメロンのシャーベット。このシャーベットの糖度が衝撃的。砂糖よりも甘いのではないかと思えるほどの圧倒的な甘さです。
メインのデザートは和久傳のれんこんもちへのオマージュ。完全に和な甘味ではありますが、
後から追加で具材を投入。ヴァニラのアイスクリーム、食用のバラ、ピオーネ、シャインマスカットなどなど。フランス料理らしいデセールに生まれ変わり、1皿で2度美味しい。
小菓子はショコラに豆菓子。ショコラはさすがの美味しさであり、もっと食べたいぜ。
以上、飲んで食べてひとりあたり4万円強でした。ちょっと高いかなあ。ペアリングの質は申し分ないのですが、量が控えめでありあまり酔わなかったため、普段よりも冷静に接してしまったのかもしれません。

料理そのものはコンポジションが解かり易く率直な味付けです。先にも述べましたが、ちょっと味が濃すぎて食べ疲れる部分があり、現代的なフランス料理にしか接したことの無いゲストはびっくりしてしまうかもしれません。皿数はそれほど多くありませんが、一皿一皿のポーションがはっきりしており、そういう点を含めてフランスにおけるフランス料理に極めて近いように感じました。

シェフは料理に係るソルフェージュが豊かであり、出発点と到達点が非常に明確。私は好きですが、今の東京のトレンドとは少し離れているように感じました。全体を通して玄人ウケする料理であり、圧倒的な昂揚感は無いものの、磐石な安心感がある。男女の勝負デートというよりは、グルメ仲間での会合にちょうど良いかもしれません。


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