こまつ/円山公園(札幌)

地下鉄円山公園駅からタクシーで1,000円程度。住宅街に佇む面白いエクステリアの日本料理屋です。店内の大きな窓からは色とりどりの樹木やその葉が飛び込んで来、妙見石原荘での食事を惹起させます。
エクステリアに負けず劣らず、インテリアも面白い。板場をカウンターで囲んでいるわけではなく、空間の隅に一段高くなった厨房があり、司会者のようなポジションから料理が供されます。

小松シェフはエルムガーデンの総料理長を10年勤め上げた後に独立。ミシュラン1ツ星。お顔がカンテサンスの岸田シェフにちょっと似ています。
飲み物は全般的に高く、温かいお茶もお金取る系です。このあとすぐに観光と、数時間後にはディナーが控えているため大人しくビールに留めました。
まずは天然のタラの芽にイチヂク、穴子。私はタラの芽マイスターではないので天然と養殖(?)の違いがわからずいずれも美味しく食べることができるタイプ。揚げた穴子が深みのある味わいで良かったです。
アイナメとイワノリ。アイナメの大きさに目が惹かれますが、一番美味しいのはスープ。魚介のエキスと海苔の風味をたっぷりと湛えつつ、旨味のハッキリした強めの調味。
お造りは中トロにシャコ。美味しいのですが、北海道らしさは特に感じられず、東京でも楽しめる味覚です。もちろん勝手に北海道感を期待する観光客の私が悪いのですが。
ジダケ(ササダケ)、守口大根、トキシラズのカラスミ焼き。ジダケは北海道原産の細身のタケノコのような味わい。守口大根は大根業界で最も細い個体らしく、深みのあるタクアンのような味わいの珍味です。

トキシラズ(時鮭)とは北海道の高級食材として食通のあいだでたいへん人気がある鮭。一般的に鮭は秋口に獲れるものですが、トキシラズとはその名の通り初夏というヘンなタイミングでひっかかる。栄養価が卵巣や精巣にもっていかれていない産卵準備前の個体であるため脂が豊かなんだそうな。
左奥はヒメサザエ、右奥はアジ、手前は玉子焼き。
ちまきの中にはチップのお鮨。チップ(ヒメマス)とは、鮭科の中でも最高の味といわれる紅鮭が、海へ下ることなく一生を淡水で過ごしたもの。低温で清水にしか生息しないため、数も非常に少なく高級魚として珍重されているそうな。繊細な身質ながらしっかりと脂がのっており、先のトキシラズよりも私は好きです。
賀茂茄子の冷製煮びたし。茄子の野性的な旨味がたっぷり詰まって実に美味。鰹出汁のジュレも品の良いコクがあり、延々食べ続けたい旨味の埋蔵量があります。
十和田湖のじゅんさい。先の鰹出汁のジュレと連続性を意識させる味覚。ヌルリとした食感に健康的な酸味が味蕾に心地よい。トマトはフルーツを思わせる健やかな甘さがあり実に美味しかった。
小さな七輪に炭をくべ、白子と湯葉の小鍋を温めます。白子のセクシーな味わいに湯葉が固形と液体の境界線に立ち、トロトロとしたあんかけにヒタと沁み込み美味しいです。ただちょっと熱すぎかなあ。客の目の前で再加熱する必要は無い気がしました。
お食事は鯛めし。安い食材でまとめられるのではなく、最後の最後までアガる素材を使ってくれるのが嬉しい。何より写真映えします。
鯛めしは鯛の味そのものよりも、エキスが溶け込んだゴハンがいいですね。もはや身よりも米のほうが味が濃い。カオマンガイチキンライスに似たコンセプトです。フレッシュな山椒の風味もすごくいい。赤出汁や漬物のクオリティも抜け目なし。
デザートには練りたてのわらび餅に和三盆で炊いた黒豆。私は和菓子についての知識を持ち合わせていないのですが、くろぎで食べた葛切りにせよ、できたてのものはいつだって美味しい。
薄茶で〆てごちそうさまでした。ちなみにこういうお茶の飲み方は、左手を添え右手で90度時計回りに2度回し、3~4口で飲み、ラスト1口はズっと音を立てて吸い込み(飲み終わった合図)、今度は反時計回りに90度を2度回しもとのポジションにセットします。クルクルと回転させるのは、正面は一番装飾に凝っているので口をつけるのを避けるためだそうです。
料理だけだと8,000円。これに酒代と税サが乗ります。まあ、こんなもんでしょうか。地方であることを考えればもう少し安く上がると嬉しいのだけれど。京都だともう少し安く済むか、同じ値段でもクオリティが高く感じることが多いので色々と考え込んでしまいました。

それでも立地の妙と雰囲気、外さない料理たちを考えるとリーズナブルと言えるでしょう。良いお店です。まずはランチからどうぞ。


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