玉寿司/中井

日本酒通より「にぎりまでたどりつけない凄い鮨屋がある」とお誘い頂き、酒飲み3人で突入。カウンター10席の完全予約制のお店です。
初夏をビールで労わってから、早速日本酒に突入。
北海道の水ダコ。目の覚める美味しさ。噛むと生き返るのではないかと思うほどの瑞々しさであり、歯ごたえも抜群。青とうがらしオイルを垂らした醤油と共に先頭打者ホームラン。
さて、ここから日本酒はドンドコドンドコ行きますよ。
10席の入店はバラバラですが、途中で全員が同じ料理に合流することになります。ル クラヴィエール有栖川と同じ方式ですね。したがって、早く入店した客に対しては結果的に皿出しが遅くなる。せっかちな人はお気をつけて。
丸々1本を捌いたばかりのカツオ。軽くヅケにしてあります。力強い鉄分が味蕾を襲い、トロリとした後味が素晴らしい。
メヒカリはグリルで炙って。適度な苦味と骨の食感が酒欲を後押ししてくれました。
当店は特定の蔵の畑違い・品種違い・磨き違いのような種類で攻めてくる。発想がワイン会に近く、垂直水平自由自在なところが面白い。
イシダイ。逞しい歯ごたえにほんのりとした旨味。ちなみにガリは自家製ではなく既製品であるのが残念。
サメの心臓にクジラ。どちらも普段はそれほど興味の無い食材なのですが、クジラが絶品。ニンニクという強烈な薬味でさえも上手に取り込んでしまうほど猛々しいクジラの野性味。
クジラの野性味に触発され日本酒も進む進む。
目の前でサバが捌かれ、そのままシメサバへと姿を変えていきます。お店の人と声を交わしながらのつかず離れずほど良い距離感がいいですね。洋食の料理人には無いスキルです。カウンター主体の小さなビストロなどを開く場合は、経験として鮨屋でも修行するのはアリでしょう。
しかしここまで日本酒を推して来るのは日本人としての民族的気迫を感じる。
漬物で空間を埋める。いぶりがっこ大好き。ちなみに「いぶりがっこ」とは、漬物として使う干し大根が凍ってしまうのを防ぐために大根を囲炉裏の上に吊るして燻し米ぬかで漬け込んだ雪国秋田の伝統的な漬物です。
漬物でひたすらに酒を乾かすのは酒豪の芸当。他方、下戸には難しいお店でしょう。
白子。グリルして表面をバーナーで炙っただけという素朴な調理なのに、西洋のややこしいクリーム系料理を凌駕するほどの味わいでした。これでリゾットとかグラタン作ると最高やろな。
ツブガイのフルーツ和え。新鮮なフルーツの甘味と酸味は天然の調味料。ツブガイ独特の味わいを優しく包みます。
長珍に戻る。
ハモはトマトと共に。梅肉の代わりにトマトという創意工夫。透明なスープも何気なく美味しい。
さてさて、このあたり凱陣が続きます。
一日三秋の思いで待ったサバがようやく〆上がりました。なめらかな舌触りで酸味がまろやか。脂もたっぷりであり、待った甲斐があるというもの。それにしても、にぎりにたどり着くまでに3時間半を要するとは風変わりな鮨屋である。
引き続き凱陣。
4番サード、マグロ。赤身とトロ身が緻密に折り重なり絶妙なバランスです。素直に美味しい。
さらに脂を乗せて。料理のひとつひとつに間があり、かつ、量が限定的であるため、にぎりに対する渇望感が見事な調味料となります。
長珍に戻る。それにしても日本酒への拘りには舌を巻く。
ウニの軍艦はウニマシマシ。はし田の盛りを彷彿とさせる気前のよいレイアウトです。
再び凱陣。なんだか丸尾本店と長珍酒造の試飲会の様相を呈してきました。
スズキは少し熟成させたもの。これぐらいの熟成がちょうど良いですね。やはりすし通の原型を留めない程の熟成より、素材が何であったかが直感的に理解できる鮨が私は好み。
つまみにホヤ。うわばみ状態ロックオン。好みの別れる素材ですが、私にとっては、ああ、日本人に生まれたんだなあと実感させてくれる一皿でした。
しばらく燗で楽しんでいたのですが、少し冷に戻りたい気分となり、私だけソロ活動でこちらを。
マグロをグリルし〆のツマミに。いやあ、今夜もよく飲んだ。
スープで胃腸を愛でつつごちそうさまでした。

強烈なお店です。19時入店24時過ぎ退店、滞在時間は5時間と少し。それでいて食したにぎりは5貫だけでした。ふと隣席を見遣ると、私の左手から5名の客全員がぶっ潰れて眠りに落ちています。ウソじゃないですよ本当ですよ。10人の酔える客たち。

お会計で目を剥く。これだけ飲んで、ひとりあたり15,000円で済みました。こんなに安くしてお店の経営は成り立つのかと心配してしまう。もはや客の全員が酒豪であるこそ組成できる集団の奇跡なのでしょう。客全員がひとつの目的に向かって飲み食いするという昂揚感は東麻布天本にも通じる所があります。

店主はおひとりで10人分のツマミを並行して調理し、厨房を魔王のようにきりまわすのですが、やはり食事のペースが鈍くなるのは事実。せっかちな下戸には一番向かないお店です。中くらいの関係の人と行ったり、友達以上恋人未満の異性と訪れるには最高難度と言えるでしょう。肝臓と時間の余裕を持たせて行きましょうね。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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